2018年5月20日日曜日

【第838回】『天才』(石原慎太郎、幻冬舎、2016年)


 著者が田中角栄だったら何を語るかという視点でモノローグを記す。あとがきで著者自身が記しているように、自民党時代の様々な両者の関係性を考えれば、甚だ意外な作品であり、ベストセラーとなった一因ともなっているだろう。

 読ませる作品である。また、考えさせられる作品でもある。稀代の政治家が何を考え、どのように人を束ね、組織を率いてきたのか。

 さらにはロッキード事件とは何だったのか。著者によれば、あの事件は、直前にアメリカの頭越しに中国との国交回復へ踏み切った田中角栄の行動をよく思わなかったアメリカ政府による誘導であったとしている。その上で、田中角栄の政治にかける想いを以下のようなモノローグとして描き出している。

 要は誰がいかに発想して土地と水と人間たちを救うかということだ。そうした新しい発想の実現でつくり出した金を、俺は俺自身のために用立てたことなどありはしない。それはすぐれた経営者や政治家にとっても同じことだろうが。他人の出来ぬ着想と発想で新しく何を開発するかということだ。俺が手掛けてきた俺の発想に依る四十に近い新しい議員立法にせよ、新規の外交方針にせよ、同じ原理ではないか。(162頁)

 公共心と、その手段の正当性について考えさせられる。

【第426回】『<民主>と<愛国>』(小熊英二、新曜社、2002年)
【第419回】『今こそアーレントを読み直す』(仲正昌樹、講談社、2009年)

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