2018年5月26日土曜日

【第839回】『実践!フィードバック』(中原淳、PHP研究所、2017年)


 本書は、著者が以前に著した『フィードバック入門』をより実務の場面に合わせて実践的に噛み砕いた書である。細かな解説や例示など痒いところに手が届く書であり、初めて部下を持つマネジャーにとっての最適な入門書である。管理職研修を受けてもしっくりこなかった方は、本書を繰り返し紐解いた方が良いのではないか。

 著者はフィードバックを「「ティーチング」と「コーチング」の両方をあわせもった、より包括的で画期的な部下育成の手法」(16頁)と定義している。

 ここ十数年、コーチングという手法が注目され浸透してきたが、コーチングは万能という訳ではない。新入社員のように、アサインされた業務に必要な職務経験が全くない相手に対してコーチングを行っても、相手は困るだけであったりする。それでも質問と傾聴のみを重ねることは、上司にとっても部下にとっても不毛な時間が過ぎるだけにすぎない。ティーチングも有効な手段であることを端的に定義の中で示していることは、ともするとコーチングばかりに注目させられている初級管理職にとって役に立つ指摘であろう。

 さらには、フィードバックが有効であると述べるだけではなく、フィードバックを行う上での重要な前提についても以下のように具体的に指摘している。

 なぜなら、部下に刺さるようなフィードバックをするためには、「できるだけ具体的に、部下の問題行動を指摘すること」が必要だからです。フィードバックは思いつきではできません。また、フィードバックはなんとなくもできません。そのためには事前にしっかりとした「観察」や「情報収集」を行うことが必須です。(44頁)

 ある手法が有効であると習うと、いきなりその手法に走るという方は決して少なくない。しかし、良かれと思って行ったことが逆効果になると、一転してその手法を行わなくなってしまう。そういった意味では、上記のようなその手法が効果を発揮するための準備を述べていることは、読者にとってありがたい指摘であろう。

 また、率直なフィードバックの有効性を述べた上で、厳しいフィードバックの後にフォローしたくなる読者を想定し、「フォローで無駄にほめる行為は百害あって一利なし」(96頁)と断言する。読者の心理に基づいた行動を先回りし、端的に述べられると心地よい。

 最後に注目したいのは1on1である。昨今ではヤフーでの取り組み事例が有名になり、流行しつつある取り組みである。ともすると、単に一対一で話す機会を増やせばいいと思われがちであるが、具体的に聴くべきポイントを169頁で三つ指摘している。

(1)部下自身の仕事の報告
(2)職場で起こっていること
(3)部下の中長期のキャリア

 (1)だけに偏るのではなく、(2)によって他の同僚がどのような状況であったり職場の人間関係で留意すべきことがあるかどうかを自然なコミュニケーションで把握できる。また、(3)を日常的な話題にすることで、パフォーマンス・マネジメントの期初や期末における面談で硬い雰囲気の中でキャリアについて語るという事態を防ぐことができるのではないか。

【第113回】『経営学習論』(中原淳、東京大学出版会、2012年)
【第641回】『職場学習論』(中原淳、東京大学出版会、2010年)
【第727回】『人材開発研究大全』<第1部 組織参入前の人材開発>(中原淳編著、東京大学出版会、2017年)
【第728回】『人材開発研究大全』<第2部 組織参入後の人材開発>(中原淳編著、東京大学出版会、2017年)
【第729回】『人材開発研究大全』<第3部 管理職育成の人材開発>(中原淳編著、東京大学出版会、2017年)
【第730回】『人材開発研究大全』<第4部 人材開発の創発的展開>(中原淳編著、東京大学出版会、2017年)
【第804回】『働く大人のための「学び」の教科書』(中原淳、かんき出版、2018年)

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