リクルートで専務取締役を務め、就職活動でお馴染みのSPIを開発したことでも有名な著者。本作が復刊されるということは、元リクの方を中心にしてSNSで盛り上がっていたので知った。読書会を一緒にというお誘いも受けたので、まずはざっと読んでみた。
タイトルにもなっている心理学的経営とはなにか。著者は、「人間を人間としてあるがままにとらえるという現実認識が出発点」(kindle ver. No.124)であるとしている。人をあるがままにとらえるということは人間を大事に扱うということであり、それを突き詰めていくと「「個性」を尊重する」(kindle ver. No.128)ことにたどり着くことは想像できるだろう。
ではどのようにして個性を尊重するのか。著者は、人間が取り組む仕事自体に基づく内発的動機付けのメカニズムに着目する。院生時代に学んでいたハックマン&オルダムの職務特性モデルが援用されているのはなつかしく読める。
職務特性モデルやハーズバーグの二要因理論を援用して、内発的動機付けにとって最も重要な心理的条件として、自己有能性、自己決定性、社会的承認性を挙げている(kindle ver. No.493)のは納得的である。
個人のレベルにおいて職務のデザインを工夫することとともに、集団における職務のデザインによって個人の動機づけおよび集団の創造性を向上することも可能だ。著者は、職場における小集団活動をその具体的な施策の一つとして取り上げ、かつ会社による押し付けの活動ではなく自律的な小集団活動であることが重要であると指摘する。
小集団からさらに発展して組織全体という視点に立つとユングの集合的無意識に結びつく。著者はユングを用いながら、活性化していない組織を不活性組織と名付け、「過去の適応を実現した状況を肯定した現状安住的な組織」や「外部に対して閉鎖的で既成の価値に拘泥し、形式を優先した硬い組織」(kindle ver. No.951)と表現している。こうした不活性組織やそこで働く個人にとって大事なのは、いかにそれまでの経験や知識を手放すか、つまりアンラーニングを意識的に行うかが重要であると指摘する。
ここから著者は、最終的には個人の個性化の一つの考え方としてMBTIを解説する。管理職の典型例としてTJタイプが論じられており、私自身もTJなので理解はしやすい。TJの功罪についてはよく吟味して自分自身の言動を省みたいと感じる。
あとがきでは心理学的経営の基本的なスタンスが述べられる。いわく「タテマエに対してホンネ、合理的なシステムに対して非合理的な人間の行動、表のマネジメントに対して裏のマネジメント、こうした対比のなかでありのままの人間に対する理解を中心において企業経営を考える」(kindle ver. No.2446)ことである。画一的かつあるべき論で語るのではなく、組織や個人におけるアンビバレンスを重視する至言として心したいものである。
【第851回】『人事管理ー人と企業、ともに活きるために』(平野光俊・江夏幾多郎、有斐閣、2018年)【第728回】『人材開発研究大全』<第2部 組織参入後の人材開発>(中原淳編著、東京大学出版会、2017年)
【第711回】『「仕事を通じた学び方」を学ぶ本』(田村圭、ロークワットパブリッシング、2017年)
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