地殻変動によって日本列島が沈没する可能性が極めて高いことが徐々に明確になる。物語の展開の早さと相待って、緊張感の高まりも次第に増していく。未曾有の災害を扱ったSF作品であるため、読者が過去に経験した災害を良くも悪くも想起させられ、その実感には悍ましくも生々しく、読者を内省させるようだ。
この物語の主人公と呼べる人々は、早くから日本列島の地殻を襲う変動を調査している。その調査をバックアップしているのが、政界のドンと言われる百歳を超えた老人だ。その老人の、日本および日本人に対する考察が考えさせられる。
「日本人であり続けようとしても……日本人であることをやめようとしても……これから先は、どちらにしても、日本の中だけでは、どうにもならない。外から規定される問題になるわけじゃからな……。”日本”というものを、いっそ無くしてしまえたら……日本人から日本を無くして、ただの人間にすることができたら、かえって問題は簡単じゃが、そうはいかんからな……。文化や言語は歴史的な”業”じゃからな……。日本の国土といっしょに、日本という国も、民族も、文化も、歴史も、一切合財ほろんでしまえば、これはこれですっきりはしておるが……だが、日本人は、まだ若々しい民族で……たけりをたっぷり持ち、生きる”業”も終わっておらんからな……」(112頁)
日本の企業組織がダメになれば、外国で外国資本の企業で働けばいいものだと個人としては思っている。いまでもその考えに変わりはないが、果たして、その時に抱くアイデンティティは何か。また外国で「一時的に過ごす」ことと、祖国がなくなって外国で「一生涯を暮らす」ということには絶対的な違いがあるのではないか。
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