私たちは、企業におけるコンサルテーションという言葉から、戦略、情報システム、人事制度といったコンテンツを描き出すことに対する支援を思い浮かべる。いわゆる戦略系コンサル、システム系コンサル、人事系コンサルといったコンサルティングファームのほとんどのビジネスがそうなっているからであろう。しかし、何を行うべきかというWHATにばかり意識が集中されると、それをどのように導き出し、どのように実行へと移すか、というHOWが等閑になる。本書は、コンテンツそのものではなくプロセスにおけるコンサルテーションを扱うものであり、こうした点に1980年代から着目していた著者の慧眼には脱帽する。
組織における実行力をどのように高めるか、という点とも繋がるプロセス・コンサルテーション(PC)について、著者は以下のように定義づけている。
PCとは、顧客によって定義された状況を改善するために、顧客が、自分の環境で生じる諸事象のプロセスを、みずから感知し、かつそこで行動しうるよう彼に支援を与える、そういったコンサルタント側の一連の活動に他ならない。(31頁)
この定義が含意するのは以下の二点であろう。第一に、PCをすすめるためには、コンサルタント側というよりも、むしろ顧客側における意志や意図が必要不可欠となる。特定の事象を改善しようとしたり、ストレッチングな目標を達成しようとしたり、といった顧客側の高いコミットメントがPCが成功するための大前提となるのである。第二に、コンサルタント側に問題解決を委ねるのではなく、顧客側が問題を同定し、解決策を導出し、実行していく、という姿勢が求められる。顧客側が行うそうした一連のプロセスに対して、コンサルタントはその支援を行うというスタンスをPCでは取られるのである。
このようなポイントを踏まえて、PCが支援する集団の問題解決と意思決定のプロセスは二つのサイクルに基づいて進展すると著者は指摘する。第一のサイクルは、問題の定式化、解決案の作成、提案された解の結果を予測しテストする、という三つの段階から成り立つ。こうしてできあがった解決案を実行フェーズに落とし込むのが第二のサイクルである。こちらは、行動計画の作成、行動を実施に移す、行動の結果の評価、という三つの段階から形成される。こうしたフェーズや段階といった細かな規定を設けることで、問題解決のプロセスが停滞した時に速やかに問題の所在を明らかにし手を打てる、という著者の指摘は、PCが経験から成る実践知であることの証左であろう。
集団における問題解決であるからには、組織における人と人の関係性、すなわち社会的プロセスを扱うことになる。したがって、心理学が対象とする個人単位を扱うものではなく、社会学が対象とする相互依存関係を扱うことになることに留意が必要だ。著者が近著(人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則
)で警鐘を鳴らしているように、近年ではモティベーション、キャリア、気質や人格といった心理学の知見が企業では重視され、社会的プロセスがないがしろにされがちだ。しかし、問題解決のプロセスを回すのは集団であり、個人ではない。私たちは今一度、企業における社会的プロセスに光を当てるべきであり、その際に、本書におけるPCという考え方は大きな縁となるだろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿