2013年12月22日日曜日

【第232回】『後悔しない転職 7つの法則』(石山恒貴、ダイヤモンド社、2012年)

 本書は、転職を推奨する書籍でもなければ、指南書でもない。仕事を自責、つまり自分の責任として捉まえてしっかりと取り組むことの重要性を改めて主張する書籍である。そうした態度・行為の蓄積の結果として、必要であれば転職という意思決定を下すことはあろうが、それは結果論にすぎない。日々の仕事の目的を理解しながら、一つひとつの職務に工夫を加えながら、仕事を自分のものにすること。たしかに自明なことのようにも思える。しかし、転職という外形的なキャリアに焦点が当たりがちなテーマにおいて、こうした当たり前のことが書かれていることに、意義があるのではないか。

 成功法則に当てはまる人たちは例外なく真剣に悩んでいました。(中略)真剣に悩むと、それを解消しようとするためにさまざまな行動を取ります。たくさんの行動をするほど、判断材料は増え、考えるポイントも明確になっていきますので、その点が望ましいことであるわけです。(Kindle ver. No. 434)

 転職における成功という定義は多面的であろうが、ここでは本書の文脈を忖度して「転職によって職務に対する内的満足度が向上すること」と捉えることとしよう。仕事に飽きたり、上司や同僚とのフィーリングが合わないといった外的な理由ばかりで転職をしていると、転職を繰り返すジョブ・ホッパーになりかねないと著者は警鐘を鳴らす。そうではなく、日々の仕事の中で真剣に悩むこと、転職するか否かにおいて慎重に悩むこと。こうしたプロセスを充分に経ることで、自分自身の内面と向き合い、また今の仕事においてベストを尽くそうという意識が向上する。そうした意識と行動の変容を通じて、キャリアを考える上でのポイントが増え、視野が拡がり、結果として成功する転職へと繋がる可能性が高まるのであろう。

 このように、現在の職務をやり切るという感覚を持つことは、以下の二点から自分自身のキャリアのためになると著者は指摘する。

 第一の理由は、軸を形成するには、その前にスポンジのような吸収力が必要だということです。(Kindle ver. No. 1249)

 ここでいう「軸」とは、キャリアにおいて自分自身が大事にする礎であり、方向性であり、シャインに言わせればアンカーとなるだろう。著者は、自分自身の軸を持つことがキャリアにおいて大事であり、無論、転職というキャリアチェンジにおいても求められることになると説く。では、どのように軸を形づくることができるのか。目新しくてワクワクするような解答が用意されているわけではなく、努力をし、工夫をこらし、一つひとつの職務から学び続けること。軸を形成する為には、こうした柔軟かつ愚直な日々の努力が求められるのである。

 第二の理由は、さまざまな種類の新しい課題、難しい課題に取り組み、乗り越えること自体が自信につながり、他責的な傾向を減少させていくということです。(Kindle ver. No. 1264)

 著者は自身の職務に責任感を持つという自責の重要性を強調し、職務を他人事のように扱って責任を他者に転嫁しようとする他責を問題視する。第一の理由で述べた新しい職務(What)に対して、また職務を新しい方法(How)によって、それぞれチャレンジすることが他責になる事態を防止する。意識の問題は、意識を前向きにするというようなことではなく、行動によって変えることができるのである。

 成功法則に当てはまる人々は、会社から「やりたいこと」をやるという指示が自分に出るように、事前にうまくコントロールしていたのです。(Kindle ver. No. 1481)

 自責という概念を、職務を自分自身のものとしてだけ捉えるのでは窮屈に思えるかもしれない。上司から指示されたものを粛々とこなすというイメージを想起させるからである。しかし、自責で職務を捉えることは、自分自身の創意工夫や、自身の方向性とアラインメントが取れた職務を自身に引き寄せることに繋がると著者は指摘する。つまり、自責によって成果を出すという説明変数が、自身が大事にしたい職務という結果変数を生み出すのである。さらに言えば、当初思い描いた「理想の仕事」というものは、将来時点から振り返ってみれば成長途上の自分自身が生み出した低い理想にすぎないことは多いだろう。そうではなく、自責で与えられた職務で成果を出し続けることで、自分自身の視点が上がり、理想の職務像や方向性が修正される。そうした修正能力や補正能力こそが、私たちの「やりたいこと」を柔軟に捉え、自分自身の成果が組織や企業の成果へと繋げることになるのではないだろうか。

 最後にTipsを一つだけ。

 資格を取得するのであれば、まず自分の専門性の裏づけとなる経験、スキル、能力を理解したうえで、その専門性の方向性に合った資格を取得し、知識面を強化していくことが望ましいでしょう。自分の専門性の方向性とは関係なく、やみくもに資格を取得しても、企業から見れば、無計画に勉強しているように見えるので、これは不利な要素になりかねません。(Kindle ver. No. 710)

 職務が複雑になり、求められる能力要件が複雑になればなるほど、シンプルな解決策としての資格に魅了されるという現象が生じる。とりあえずMBAに留学する、TOEICで730点を取る、簿記を受験する。資格を取得する上でのプロセスで学ぶもの、取得するという結果を得ることによる自己効力感を否定するつもりはない。しかし、取得した後に自分自身の職務経験との繋がりをどのように見出すことができるか。もっと言えば、そうしたものの方向性を事前に見極めた上で、何を行うべきかを考えるべきなのだろう。資格取得は、その選択肢の一つにすぎないのである。

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