2013年12月8日日曜日

【第228回】『マネジャーの実像』(H・ミンツバーグ、日経BP社、2011年)【2回目】

 本書はマネジメントに携わる役割、とりわけ中間管理職に焦点を当てたものである。先ず著者は、中間管理職を取り巻くリーダーシップとマネジメントという近しい概念について以下のように述べる。

 マネジャーとリーダーを区別するのではなく、マネジャーはリーダーでもあり、リーダーはマネジャーでもあるべきなのだと、理解する必要がある。(13頁)

 マネジメントとリーダーシップ、マネジャーとリーダーとを厳密に分けようとするのは神学論争にすぎない。両者の定義を考える上では、ドラッカーを引用しても良いだろうし、コッターを引用しても良いだろう。しかし、管理職として求められるのは両者を兼ね備えることであり、両者を識別することではない。

 優れた管理職はリーダーでありマネジャーでもある、という視点に立った上で、リーダーシップをややもすると重要視しすぎる現状について以下のように警鐘を鳴らす。

 実際には、いま私たちが憂慮すべきなのは、マイクロマネジャーではなく、おおざっぱにリーダーシップを振るいすぎる「マクロリーダー」だ。組織の上層部の人間が現場を知らずに「大きなビジョン」だけを振りかざし、いわば遠隔操作でマネジメントをおこなおうとする風潮がある。一般に、マネジメントの過剰とリーダーシップの不足を問題視する論者が多いが、私に言わせれば、問題はリーダーシップの過剰とマネジメントの不足である。(12頁)

 マイクロ・マネジメントという言葉が否定的に使われ易い現状に対する痛烈な批判と言えるだろう。現場を知らずにリーダーシップばかりを振りかざすことは、現場のためにならない。私たちは改めてマネジメントの重要性、ひいては現場の情報を吸い上げる中間管理職の機能に注目する必要があるのだろう。

 中間管理職の多くはプレイングマネジャーであり、とにかく時間が逼迫しているケースが多いのが現在の彼(女)らの悲哀である。そうした状況の中でうまく対処している優れたマネジャーは何を行っているのであろうか。

 マネジャーは状況をコントロールするために、新しい義務をつくり出したり、既存の義務をうまく利用したりしている。 うまくいくマネジャーとそうでないマネジャーの最も際立った違いは、おそらくここにある。成功するマネジャーは、誰よりも大きな自由を手にしている人物ではなく、手持ちの自由を最大限活用できる人物のようだ。(51頁)

 個人の趣味のようなチームビジョンを提示したり、飲みニケーションを試みることが良いマネジャーではない。忙しい現場を混乱させることを招きかねないばかりか、それ以上に忙しいマネジャー本人にとっても苦痛だろう。組織にとって必要な業務を通じて、求められる役割の中で有効活用することがマネジャーには求められるようである。現実を踏まえた極めて合理的かつ分かり易い実務的なインプリケーションと言えるだろう。

 このように考えれば、仕事の多様性、働く社員の多様性が高まる現在の企業においては、効率的にマネジャーが動くためには上下の問題だけではないことが分かるだろう。

 マネジメントとは、組織階層のタテの関係だけでなく、対等な人物同士のヨコの関係に関わるものである。(45頁)

 マネジャーは部下との関係性、上司との関係性だけを考えれば良いものではない。企画を通すためには、斜め上の上司や他部署のマネジャーへの調整が必要不可欠だ。したがって、上司や部下との関係性だけではなく、他部署のマネジャーとの良好な関係性を耕し、認められていることが求められる。むろん、他部署のマネジャーとの関係性が優れていないマネジャーが、自身の上司や部下との関係性だけは優れている、ということはあまりないのであろうが。

 ではマネジメントはどのように開発されるのか。

 マネジメントは実践の行為であり、主として経験を通じて習得される。したがって、具体的な文脈と切り離すことができない。(14頁) かなりの量のクラフトに、ある程度のアート、それにいくらかのサイエンスが組み合わさった仕事ーーそれは実践の行為と呼ぶのが最もふさわしいだろう。(16頁)

 マネジメントを開発するためには、研修(サイエンス)だけでは足りず、個々人の創造性(アート)を加えても足りない。経験(クラフト)が揃ってはじめて実践の行為としてのマネジメントが開発されることになる。机上の空論ではなく、実務における実践こそが重要であると同時に、科学的な知見に基づいた研修や、幅広い教養に根ざしたアートも寄与することを忘れてはいけない。

 では、マネジメントに求められるスキルやマインドセットをどのようなプロセスで開発すれば良いのか。著者は振り返りの重要性を述べている。

 振り返り(省察)とは、「検討、調査、分析、総合、結合を通じて、『(ある経験が)自分にとってどういう意味をもつのかじっくり慎重に考える』こと」である(中略)。「リフレクト(振り返る)という英単語の語源は、「折り曲げる」という意味のラテン語だ。この点からもわかるように、まず内面に着目し、その次に外面に目を向けることを通じて、見慣れたものごとを別の角度から見る活動が「振り返り」である(中略)優れたマネジャーは自分の頭でものを考えるのである。(324頁)

 reflectの語源から紐解いている点が興味深い。柔軟に、かつ多様な側面から自分自身のマネジメント行動を見つめ直すこと。そこから見出したものを自分の頭で、いわば客観的に分析すること。その上で、自分自身のこれからのマネジメント行動の改善に活かすようにすること。これらを含めた総体がマネジメントに求められる振り返りなのだろう。

 優れたマネジャーは、振り返りのための時間を取りづらい環境のなかで、振り返りをおこなう方法を見いだしている。(326頁)

 「忙しいから振り返る時間がない」というマネジャーから予想される反論について、予め釘を刺している。振り返りの時間を設ける上での工夫はいくらでもある。北海道大学の松尾教授も指摘しているように、業務を行いながら行う振り返りや、他者を利用した振り返りといった点が参考になるだろう。(『「経験学習」入門』(松尾睦、ダイヤモンド社、2011年)

 最後に、はじめてマネジャーになる際に心がけたい点について。

 新人マネジャーたちは、「指示するのではなく、説得することを通じて人々を導く術を学び」[Hill 2003:100]「なにをもって成功とみなすかの基準を改め、それまでと異なる方法で仕事から満足感を得ることを学ぶ必要があった。要するに、まったく新しい職業上の人格を形成しなくてはならなかった」[Hill 2003:x]。具体的には、どうすればいいのか。「マネジャーになったばかりの人は、過酷な自己開発のプロセスに放り込まれたのだと自覚」して、「仕事の経験を通じて学習する」ことを目指すべきだ(223頁)

 プレイヤーとマネジャーでは全く異なる役割が求められることになる。したがって、プレイヤーとしての力量を一旦脇において、マネジャーとしての業務経験を謙虚に積み上げていくしかないのだろう。こうしたマインドセットであれば、マネジャーになった当初からパフォーマンスを高くしなければならないといったように自分自身を追い込むことは避けられそうだ。

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