2014年5月5日月曜日

【第281回】『良い戦略、悪い戦略』(リチャード・P・ルメルト、村井章子訳、日本経済新聞出版社、2012年)

 経営思想家のグルの一人としても名高い著者による最新著である。エッセンスを抽出しようとする本書のような作品こそ、経営戦略の入門書の一冊として位置づけられるべきものなのかもしれない。

 戦略を野心やリーダーシップの表現とはきちがえたり、戦略とビジョンやプランニングを同一視したりする人が多いが、どれも正しくない。戦略策定の肝は、つねに同じである。直面する状況の中から死活的に重要な要素を見つける。そして、企業であればそこに経営資源、すなわちヒト、モノ、カネをして行動を集中させる方法を考えることである。(4頁)

 戦略という概念について、著者はずばりと選択と集中であるということを端的に述べている。ここまでシンプルに定義付けしない限り、著者が述べるようにともするとビジョンや行動計画や目標といったものと混同されてしまうのであろう。その上で、本書のタイトルにもなっているように、良い戦略と悪い戦略との差異について著者は筆を進める。

 良い戦略とは最も効果の上がるところに持てる力を集中投下することに尽きる。短期的には、手持ちのリソースを活かして問題に対処するとか、競争相手に対抗するといった戦略がとられることが多いだろう。そして長期的には、計画的なリソース配分や能力開発によって将来の問題や競争に備える戦略が重要になる。いずれにせよ良い戦略とは、自らの強みを発見し、賢く活用して、行動の効果を二倍、三倍に高めるアプローチにほかならない。(134頁)

 選択と集中という観点に時間軸を加えることで、短期的なアプローチと長期的なアプローチとに分けて展開されていることが分かる。短期と長期のアプローチをそれぞれ分けて考えながら、最終的に統合させることでそれぞれのアクションにレバレッジがかかるようにアプローチするべきであると著者は述べる。

 「条件を指定しない限り、技術者は何もできない」というフィリスの慧眼は、組織的に行う仕事の大半に当てはまる。サーベイヤーの設計チームと同じく、どんなプロジェクトでも状況が完全に解明されているということはめったにない。このようなとき、リーダーは複雑で曖昧な状況を整理して、何とか手のつけられる状況に置き換えなければならない。だが多くのリーダーがここでつまずいてしまう。何に取り組めばよいのか曖昧なままにして、むやみに高い目標を掲げてしまうことが多い。「最後の責任は自分がとる」と言うだけでなく、近い目標を設定してチームが動けるようにすることがリーダーの大切な使命である。(152頁)

 経営戦略という言葉からは、CEOや経営企画といった一部の人々だけが担うものと誤解されがちだ。しかし、戦略の遂行を担う人々は組織の至るところにいるべきであり、そうした存在がリーダーである。リーダーは、経営戦略を信奉してその正当性を述べるばかりではなく、直近で行うべき近い目標や方向性を具体的に伝える存在である。そうしなければ、組織として戦略に合致した行動を徹底することはできず、戦略は画餅と堕してしまうのである。


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