2014年6月8日日曜日

【第294回】『なぜ人と組織は変われないのか』(R・キーガン L・L・レイヒー、池村千秋訳、英治出版、2013年)

 組織レベルでの変革と個人レベルでの変革とは表裏一体のものであり、どちらともにアプローチをすることが必要不可欠である。そうであるにも関わらず、私たちはともすると企業での変革を実現しようとする際に、変革の主体である個人への意識が弱くなりがちだ。

 組織での変革が起こらない、もしくは実現するまで継続しない理由は個人のありようにある、というのが本書の主なメッセージである。その上で、大人の知性には三つの段階があると著者たちはしている。その特徴は以下の通りである。(31頁)

(1)環境順応型知性
  • 周囲からどのように見られ、どういう役割を期待されるかによって、自己が形成される。
  • 帰属意識をいだく対象に従い、その対象に忠実に行動することを通じて、一つの自我を形成する。
  • 順応する対象は、おもにほかの人間、もしくは考え方や価値観の流派、あるいはその両方である。

(2)自己主義認知性

  • 周囲の環境を客観的に見ることにより、内的な判断基準(自分自身の価値基準)を確立し、それに基づいて、まわりの期待について判断し、選択をおこなえる。
  • 自分自身の価値観やイデオロギー、行動規範に従い、自律的に行動し、自分の立場を鮮明にし、自分になにができるかを決め、自分の価値観に基づいて自戒の範囲を設定し、それを管理する。こうしたことを通じて、一つの自我を形成する。

(3)自己変容認知性
  • 自分自身のイデオロギーと価値基準を客観的に見て、その限界を検討できる。あらゆるシステムや秩序が断片的、ないし不完全なものなのだと理解している。これ以前の段階の知性の持ち主に比べて、矛盾や反対を受け入れることができ、一つのシステムをすべての場面に適用せずに複数のシステムを保持しようとする。
  • 一つの価値観だけいだくことを人間としての完全性とはき違えず、対立する考え方の一方にくみするのではなく両者を統合することを通じて、一つの自我を形成する。

 第二の段階は第一の段階を内包し、第三の段階は第一と第二の段階を内包する関係性である。したがって、知性の段階がすすむにつれて、その個人の認知のありようはゆたかになり、「引き出し」が増える状態となる。

 知性のレベルがある段階に達した人は、それまでものごとを見る際のフィルターだったものを客観視できるようになる。ある認識アプローチの囚人だった人が、その認識アプローチと距離を置き、その全体像を見られるようになるのだ。その結果、それまで見えていなかったものが見えてくる。(221~222頁)

 認知の段階が進むにつれて、主観的ではなく客観的に、個別ではなく全体を見ることができるようになる。自己変容認知性にあるように、自分自身の変容可能性を認知できる状態になれば、まず自分自身を変革することができる。そうした認知の段階にある人々が一定以上の数になることと、その関係性が潤沢になることで、組織もまた変革できる可能性が高まるのである。

 では関係性を築き上げるための最初の一歩はどのようなものだろうか。

 もっと重要な共通点は、二人とも幹部チームの現状を検討する際に、自分を枠外に置かなかったことだ。幹部たちに各自の“変革をはばむ免疫機能”をみんなに公表するよう求めただけでなく、自分が率先してそれをおこなったのである。これが決定的な意味をもった。(110頁)

 自分を変革を起こす主体として認識すること。その上で、自分自身の認識を歪める存在を見出してそれを率先して共有すること。変革を成し遂げ、結果を生み出す組織の一つの特徴として著者たちが挙げている点を、充分に噛み締めたい。


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