2015年3月15日日曜日

【第423回】『一瞬の風になれ 第三部』(佐藤多佳子、講談社、2006年)

 高校二年の秋から高校三年の関東大会までを描いた最終巻。読み終えるのがもったいないと思える作品である。

 人生は、世界は、リレーそのものだな。バトンを渡して、人とつながっていける。一人だけではできない。だけど、自分が走るその時は、まったく一人きりだ。誰も助けてくれない。助けられない。誰も替わってくれない。替われない。この孤独を俺はもっと見つめないといけない。俺は、俺をもっと見つめないといけない。そこは、言葉のない世界なんだーーたぶん。(246頁)

 私自身は、チームスポーツを一所懸命に行なった経験が、残念ながら、ない。しかし、ここで著者が敢えて述べているように、人生や世界といった、時間軸や空間軸を広く捉えて考えてみることが有効なのだろう。つまり、どのようなチームという単位であっても、個人と組織という二つを同時に考えることが大事なのではないだろうか。さらに進めて考えれば、個人と組織という二者択一の考え方を弁証法的に発展的解消することで、私たちは異なる考え方に至れるのではないだろうか。

 個人と組織ということを同時に考えること。これは、ビジネスでもそうであるし、スポーツにおいても重要なことなのだろう。イチロー選手は、第一回WBCで優勝した後に王監督(当時)と食事をしていた際に、組織と個人のどちらが大事かと尋ねたそうだ。それに対して王監督は即座に個人であると回答し、同じ考え方であったイチロー選手は深く納得したというエピソードがある(『屈辱と歓喜と真実と』(石田雄太、ぴあ、2007年))。ここでの両者は、個人の方が大事であると言っているが、私にはどうも、両方が大事であるがその起点として個人がある、というように解釈できるのであるが、いかがだろうか。

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