2016年1月10日日曜日

【第536回】『夢十夜』(夏目漱石、青空文庫、1908年)

 不思議な作品である。著者名を知らずに読んでいたら、漱石と気づけた自信が全くない。短編小説であり、すぐに読み切れるが、一つひとつを理解しようとすると時間が掛かるものだろう。

 そのうちに頭が変になった。行灯も蕪村の画も、畳も、違棚も有って無いような、無くって有るように見えた。と云って無はちっとも現前しない。ただ好加減に坐っていたようである。ところへ忽然隣座敷の時計がチーンと鳴り始めた。(Kindle No. 107)

 第二夜からの引用である。侍が決められた時間までに悟りを開こうとあらゆる努力を尽くす。悟れないことに苦しみながら、悟ろうと意識をし続けた挙げ句、行動に夢中になって無意識の境地に至る。これが悟った状態なのかどうか、漱石は何も述べない。悟ったとも言えるかもしれないが、そこまでは至っていないようでもある。いろいろなことを考えさせられる作品だ。


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