「100分de名著」の別冊シリーズが刊行されていたとは知らなかった。名著を簡潔かつ丁寧に説明する良質な番組のスピンオフとも言える本シリーズも、読み易く興味深いものであった。
老子の語る「道」は、説明を聞けば聞くほどわからなくなってきそうですが、無理に細かく理解する必要はありません。「無」と言っても、そこになにもないという意味ではなく、何物であるかが規定できないから「無」と言っているだけなのです。「こういうものが存在します」と明言すると、その存在に限定されてしまうので、一切合切を包括するものとして「無」という言葉を老子は使ったと考えるべきでしょう。(18頁)
老子で繰り返し説かれる「道」は、わかりやすいようで非常に難解な概念である。著者は、そうした深さや難しさを無理に理解しようとしなくて構わないとする。こうした大らかな読解は、老子の創り出すゆるやなか雰囲気とマッチするものであろう。
故に将に五危有り。必死は殺され、必生は虜にされ、忿速は侮られ、廉潔は辱められ、愛民は煩わさる。凡そ此の五者は、将の過ちなり。用兵の災いなり。軍を覆し将を殺すは、必ず五危を以てす。察せざるべからざるなり。(八 九変篇)(78頁)
この孫子の引用箇所で、著者は、管理職の持つべき資質として解説を試みている。いずれも一見すると好ましい特質であり、たしかに持っていることで良い時もあるだろう。しかし、行き過ぎることによって問題が生じる可能性が増加してしまうことを戒めているのである。
とはいえ、人間とは愚かなもので、一度あるやり方でうまくいくと、その印象にとらわれて、次も同じ手が使えるのではないかと思ってしまいがちです。もちろん状況は刻々と変化しているので、同じ局面というものはまずやって来ません。そのときに、成功の記憶をいったん捨てて、また新たに陣形を組み直せるかどうか、そういう柔軟性を持っているかどうかということが、その軍の強さ、あるいは指揮官の強さになってくるわけです。かつて、日本海海戦の大勝に酔った帝国海軍が、航空機の時代になっても艦隊決戦にこだわった末、あえなく壊滅した歴史などは、成功が人(軍)から柔軟性を奪ったよい例でしょう。(87~88頁)
臨機応変の対応できる水の柔軟性の素晴らしさが述べられている。成功の復讐とも呼ばれるほど、一度うまくいったものが、将来において私たちの行動を束縛し、失敗の種となることはよくある事象である。引用の後半の部分で描かれている部分は、『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』を読むとより理解できるだろう。
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