法律を法律の視点からだけで捉えると無味乾燥なものになってしまう。しかし、現実に起こっている事象と法律との関連が述べられると、そこに切実なストーリーを見出せることがある。本書はまさにそうした書籍であり、労働法が企業やそこで働く人々にとってどのような影響を与えてきたのかに思いを巡らせてくれる。
雇用契約それ自体の中には具体的な職務は定められておらず、いわばそのつど職務が書き込まれるべき空白の石版であるという点が、日本型雇用システムの最も重要な本質なのです。こういう雇用契約の法的性格は、一種の地位設定契約あるいはメンバーシップ契約と考えることができます。日本型雇用システムにおける雇用とは、職務ではなくてメンバーシップなのです。(3~4頁)
日本企業における企業と働く個人との関係性をメンバーシップに置いている点が、本書を通底する主張である。日系の企業でキャリアを始め、現在外資系企業に勤めている身として、日系の企業がメンバーシップを雇用の根幹に置いているという点は納得的であり、身をもって理解できる。
日本型雇用システムにおいては、メンバーシップの維持に最重点がおかれるので、特にその入口と出口における管理が重要です。メンバーシップへの入口は採用であり、メンバーシップからの出口は退職ですが、いずれも極めて特徴的な制度を持っています。すなわち、採用における新規学卒者定期採用制と退職における定年制が日本の特徴となっています。(8頁)
メンバーシップを根幹に置くと、人事システムの入口では、先達に迎えられる要素を持つ人物か否かが問われることになる。それは長期にわたって安定的に働く長期雇用を前提とした新卒一括採用となり、職務における専門性ではなく人間的な総合性が重視される。その帰結として、ゲマインシャフトとしての企業組織の中で、メンバーとしての社員は終身雇用されることとなる。こうした日本企業の来し方を法的な観点から読み解いていけば、現状の日本企業において起こっている事象と、今後の変化の方向性を考えることができるのではないだろうか。
0 件のコメント:
コメントを投稿