2016年5月1日日曜日

【第570回】『オシムの言葉』(木村元彦、集英社、2005年)

 数年ぶりに紐解き、オシムの言葉に触れてみる。すると、その奥深い言葉が、改めて輝いて見える。

「システムは関係ない。そもそもシステムというのは弱いチームが強いチームに勝つために作られる。引いてガチガチに守って、ほとんどハーフウェイラインを超えない。で、たまに偶然1点入って勝ったら、これは素晴らしいシステムだと。そんなサッカーは面白くない。
 例えば国家のシステム、ルール、制度にしても同じだ。これしちゃダメだ。あれしちゃダメだと人をがんじがらめに縛るだけだろう。システムはもっとできる選手から自由を奪う。システムが選手を作るんじゃなくて、選手がシステムを作っていくべきだと考えている。チームでこのシステムをしたいと考えて当てはめる。でもできる選手がいない。じゃあ、外から買ってくるというのは本末転倒だ。チームが一番効率よく力が発揮出来るシステムを選手が探していくべきだ」(121頁)
 企業組織におけるシステムを考えて、思わずハッとさせられる言葉である。何かを変えるために、もっと言えば、何かを変えようとしていることをわかりやすく伝えるために、企業ではシステムつまり組織を変えようという誘因が働きやすい。しかし、システムを変えることは、企業の戦略とのアラインメントを取るためであり、そうであればこそ、戦略実現の前提となる人に合わせたものが求められるのではないか。

 ただ、それより重要なのは、ミスを叱っても使い続けるということだ。選手というのは試合に出続けていかないと成長しない。どんなに悪いプレーをした時でも、叱った上でそれでも使う。ミスをした選手を、それだけで使わなくなったら、どうなる?その選手はもうミスを恐れてリスクを冒さなくなってしまうだろう。いつまでも殻を破ることができない(126頁)

 怒ると叱るの違いを管理職研修ではよく扱う。しかし、叱るには、相手を信頼し、辛抱強く待ち続けることが前提条件として求められる。信頼し続けているからこそ、叱った後に同じ人材を使い続ける。叱ることによって、相手が今後望ましい方向に変わることを信じているのである。叱るのにはエネルギーがかかるものであり、相手を信頼していたり、相手に対する敬愛の情がなければ、叱るということはなかなかできるものではない。


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