2016年11月4日金曜日

【第640回】『採用学』(服部泰宏、新潮社、2016年)

 タイトルにもなっている採用学という新たな学問領域を日本において打ち立てて、人事業界とりわけ採用の領域において活躍している著者。その想いは、冒頭にある以下の箇所に端的に要約されている。

 「いま日本の採用活動は大きく変わろうとしている。そして、今後もますます大きく変わっていくだろう。企業としては、そうした流れに絶対に乗り遅れてはならないわけだが、そのためには自社の採用を足元から見つめ直し、変革する必要がある。そして幸運なことに、そうした変革のための考え方やガイドラインは、すでに科学的手法によって用意されている」(5頁)

 科学的手法と反対概念にあるのが経験や勘といったものであろう。かつての採用担当者として身につまされる思いがするのが以下の箇所である。

 フィーリングのマッチングを、日本では得てして期待や能力のマッチングよりも優先させてしまいがちである。このようなマッチングは、これまで欧米の研究では指摘されてこなかったし、「非科学的」にも思えるのだが、長期雇用が重視され、社員と企業との関係が長期間にわたることが多い日本では起きがちなマッチングなので、採用の際はそのことを常に意識しておいてほしい。(53~54頁)

 空いているポジションにおけるジョブ・ディスクリプションに基づいて採用活動を行う欧米型の企業に対して、日本企業における特に新卒採用においては、空きポジションを想定せずに採用活動を行う。そうなると、長期雇用を前提として「うちの会社」と合うかどうかというフィーリングを重視してしまう。

 こうしたフィーリングが絶対に悪いということではないだろう。しかし、フィーリングという要素を無意識に重視してしまうと、採用要件が曖昧化する。採用要件が曖昧になることによって、必要以上の面接候補者群が形成され、企業側の採用に関わる工数が不必要に増えてしまう。

 また、曖昧な要件に合わせようと、候補者側の過剰な自己プロデュースと過当競争が生じ、本来採るべき候補者が落ちてしまうということもあるだろう。著者が冒頭で述べているように、採用活動において科学的手法を用いるべき時期になっているのだろう。


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