2016年11月26日土曜日

【第648回】『夜明け前 第一部 下』(島崎藤村、青空文庫、1932年)

 上巻から時代が進み、戊辰戦争へと至る。変化の激しい時代において、人々がどのように不安を感じ、その不安がどのように増大していくのか。現代にも通ずるものが、本作には描かれているように思える。

 「そこだて。金兵衛さんなぞに言わせると、おれが半蔵に学問を勧めたのが大失策だ、学問は実に恐ろしいものだッて、そう言うんさ。でも、おれは自分で自分の学問の足りないことをよく知ってるからね。せめて半蔵には学ばせたい、青山の家から学問のある庄屋を一人出すのは悪くない、その考えでやらせて見た。いつのまにかあれは平田先生に心を寄せてしまった。そりゃ何も試みだ。あれが平田入門を言い出した時にも、おれは止めはしなかった。学問で身代をつぶそうと、その人その人の持って生まれて来るようなもので、こいつばかりはどうすることもできない。おれに言わせると、人間の仕事は一代限りのもので、親の経験を子にくれたいと言ったところで、だれもそれをもらったものがない。おれも街道のことには骨を折って見たが、半蔵は半蔵で、また新規まき直しだ。考えて見ると、あれも気の毒なほどむずかしい時に生まれ合わせて来たものさね。」(kindle ver No.140)


 学ぶことは素晴らしいものだ。とりわけ、それが制限されている中で学び続ける姿勢には頭が下がる思いがある。しかし、知識を得ること、学びを深めることには、マイナスの要素もあり得るという現実に目を向けさせてくれるのがこの箇所である。謙虚に、学ぶことが重要なのかもしれない。


0 件のコメント:

コメントを投稿