2016年11月19日土曜日

【第645回】『「明治」という国家(下)』(司馬遼太郎、日本放送出版協会、1994年)

 上巻に続き、本巻でも明治時代における日本国家が述べられる。著者の江戸幕末から明治における歴史小説のエッセンスが凝縮された、贅沢な一冊だ。

 明治維新を実現し、近代国民国家としての明治という国家が作られた条件はなんだったのか。その理由の大きなものの一つとして、<日本>における人口の多さが指摘されている。

 日本に多いのは、むかしもいまも人口です。それは、水田の国だからでしょう。(110頁)

 人口が多かった理由として、水稲稲作という日本の風土に根ざした農業形態が挙げられている。水稲稲作という農業の豊かな状態によって支えられたのが、武士階層である。生活を行う上で、武士は不要な存在とも言える。そうした階層が潤沢に存在できたことが、日本の近代化に大きく貢献したのである。

 ありあまるサムライたちの多くが読書階級をなし、また武士的節度を重んずるという規律を保ち、いわば江戸期日本の精神文化をささえたともいえます。農民にとって大変高くついた制度でした。しかし日本史ぜんたいという場所からみれば、帳尻は合っていたでしょう。(115頁)


 その理由は、武士という職業形態が、文字を読み、書くという精神文化を創り上げたからであるという。後半で述べられている通り、水稲稲作を直接的に支えた農業に携わる人々の支えのもとに、武士という読書階級が生み出され、そうした階層によって日本の近代化が為されたというのも興味深い解説である。


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