2017年4月2日日曜日

【第694回】Sheryl Sandberg, “LEAN IN”【2回目】

 本書を読み直そうと思ったのは、ザッカーバーグに焦点を当てた『フェイスブック 若き天才の野望』で著者の名前を目にしたからである。ザッカーバーグのような稀代のビジネスリーダーであっても、一人でFacebookの戦略を立ててその遂行をリードできるわけではない。特に、COOとして組織を創り上げて運営する著者の存在が大きいことは言うまでもないだろう。

 読み直しての感想は、日本企業においても待ったなしのイシューとなった女性活躍やダイバーシティといったジャンルにおける稀有なケーススタディであるということである。それとともに、あらためて自分自身に惹きつけて印象的であったのは、キャリアに関する彼女の示唆である。

 現代企業において働く個人として、心から感銘を受けたのは、キャリアという概念に対する以下の表現である。

“Careers are a jungle gym, not a ladder.”
As Lori describes it, ladders are limiting - people can move up or down, on or off. Jungle gyms offer more creative exploration. (Kindle No.785)

 キャリア・ラダーという言い方をこれまで企業ではされてきた。梯子を上っていくようにキャリアを捉え、現実への適応として複線型のキャリア・ラダーを近年では用意する企業も増えてきている。それに対して、彼女は、梯子ではなくジャングル・ジムという形容がキャリアには適していると主張している。ジャングル・ジムの遊び方は人それぞれであり、ゴールをどこに置くかは自由であるし、そのプロセスにチャレンジを感じ楽しみながら行うという含意がある。これは、キャリアにアップやダウンはないという捉え方や、プロセスの中で工夫をしたり自分自身の価値観の変容を意識的に行うという動態的なキャリア理論と符合する。アナロジーとしてとても興味深い。

while I don’t believe in mapping out each step of a career, I do believe it helps to have a long-term dream or goal.
A long-term dream does not have to be realistic or even specific. It may reflect the desire to work in a particular field or to travel throughout the world. Maybe the dream is to have professional autonomy or a certain amount of free time. (Kindle No. 813)

 ジャングル・ジム型のキャリアであれば、予定調和性の高い具体的で他者から見てもわかりやすいキャリア・ゴールを持つことは困難である。それとともに、環境変化や自分自身の内的変容を所与とすれば、一つのゴールに固執することは、自分自身を縛ってしまう結果になりかねない。したがって、プロフェッショナルとしての自律性を担保したり、柔軟に活用できる時間を自身で工夫しながら設けることが必要であろう。

I also believe everyone should have an eighteen-month plan. (An omission) First and most important, I set targets for what my team can accomplish. (An omission)
Second, I try to set more personal goals for learning new skills in the next eighteen months. (Kindle No. 868)

 長期的かつ固定的なキャリア・ゴールを持つべきでないという主張は、キャリア・ゴールを設定することに意味がないということを含意しない。そればかりか、何もゴールを設定しないことは、自分自身の拠り所や基軸を失って迷走しかねない。著者が指摘する18ヶ月という期間が最適かどうかは難しい。『アライアンス』で述べられているコミットメント期間と同じように、一つのミッションが完了する期間で成長目標を設定することと捉えれば現実的なのではないだろうか。

In my personal life, I am not someone who embraces uncertainty. (An omission) But in my professional life, I have learned to accept uncertainty and even embrace it. (Kindle No. 895)


 変化が激しく、自分自身の変容も節目ごとに行いながらキャリアをすすめる上では、偶然をいかに受け入れるかが求められる。偶然をアクシデントとして否定するのではなく、オポチュニティとして活かしていくこと。そのためには、泰然自若として構えて、自分自身の価値観とのつながりや価値観の拡がりにどのように活用するか、というマインドセットが求められているのであろう。


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