日本代表という言葉が興味を唆るのか。それとも、甲子園のようなトーナメント方式が興奮を喚起するのか。いずれにしても、今年のWBCが始まるのを心待ちにし、息詰まりながらも魅了されて見ていた。残念ながら敗退した準決勝は時間の関係で観戦できなかったが、それでも不思議とそれまでのグループリーグの闘いで野球の醍醐味を堪能した。
大会が始まってからの船出は、素人目にはスムーズだったように思えなかった。好調な打線とは反対に、浮き沈みの激しい投手陣に不安を覚えた人は私だけではないだろう。その中で、初登板から活躍し、最終的に日本で唯一のベストナインに選ばれたのが千賀選手である。彼が出ると、安心して観戦することができた。村田バッテリーコーチによるエピソードが面白い。
「千賀に『次、行けよ』って言うと、決まって『いえ、僕はいいです』って言うんです(笑)。もちろん、いざとなったらエンジンがかかるのも早かったですけどね」
おそらくは、芽生え始めた自信と未知の領域への不安を心の中で戦わせているのだろう。準決勝を終えた千賀はこう言った。
「自分はこんなに集中できるんだ、これが集中力なのかと思いました。そこに自信を持てば、もっと成長できると思います」
武器はお化けフォークだけではない。上を見る力もまた、千賀を高みに押し上げたもう一つの強みだったのである。(26頁)
あれだけ自信を持ってマウンドで打者に挑んでいたように見えた千賀選手の発言とは一見思えない。しかし、決まった以上は切り替えてブルペンで準備をしてマウンドに向かっていたのであろう。フォークという決め球に私たちの関心は向かっていたが、育成選手から這い上がり、自分自身を高みに向かって進めていく目的意識が彼の強みなのであろう。
感覚に頼った、百戦錬磨の権藤コーチ。
その起用法に大人の対応をした投手陣。
陰で両者の橋渡しに努めた村田コーチ。(34頁)
代表チームの選手起用は難しい。特に繊細な感覚と、プライドを兼ね備えた投手の起用方法やより難しかっただろう。そうした状態において、ブルペンをどう切り盛りするかが肝要となる。特に、感性タイプで重鎮でもある権藤コーチに対して、ブルペンの投手側の意見や感情を踏まえながらも、抑制の効いた意見を具申することができたのが、投手陣をまとめ上げて成果をあげる結果につながったのであろう。
「周りでごちゃごちゃいう人はいる。でも監督は選手のことを考えてやってくれる方で、その中で責任感も強い方だと思うし、俺は凄い人だと思っている。小久保さんだからやろうと思ったし、他にもそう感じている選手は絶対にいると思う。もし監督があの人でなかったら、ひょっとしたら俺は、出場を辞退していたかもしれない」(35頁)
今度は打撃陣について。上記は中田翔の言葉だそうだ。満身創痍で腰痛のためにホテルで寝返りを打つのも苦労していた状態の彼に、こうした言葉を吐かせる小久保監督のリーダーシップは素晴らしい。
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