通して読むのは三度目であるが、いい意味で読むたびに新鮮な学びがある。単に記憶力が低下しているだけなのかもしれないが、その都度で仕事に活かせそうと思うポイントが違うのであろう。読み応えがある書籍というものは、読み手が勝手に思考を進められるものなのではないだろうか。
評価要素の具体性と観察可能性、評価結果の本人へのフィードバックという観点からすれば、アメリカ流の多次元が勝っているように思えてならない。
一方、だれをポストに昇進させるかという人事目的であれば、少次元の評価のほうが意思決定に活かしやすい。そもそも評価すべき要素に業績や成果といった職務関連の部分だけでなく、個々人の能力や態度といった属人的要素を含み入れているわが国の人事評価では、個人業績の概念を、より幅広くとらえていこうとする意識が働いているようだ。(50頁)
評価基準に見る日米の相違について簡潔にまとめられている。職務等級に基づく評価と、職能資格に基づく評価との差異と捉えれば分かりやすいだろう。その上で、昇進・昇格という観点で評価項目を活用するとしたら、少ない項目に基づいていた方が比較が楽であるという点は納得的だ。多数の評価項目があれば、個人への今後の成長課題に対するフィードバックをしやすくする一方で、他者との比較によってどちらが上位職に適しているかを納得させづらいだろう。だからこそ、何をもって昇格の要件とするかを決めることが、大事であるとともにセンシティヴなものとなるのである。
従来から実施されてきた上司の査定による伝統的な人事考課が、パフォーマンス・マネジメントに取って代わられるだろうというのが、近年の経営学、とくに人事評価研究での1つの認識である。評価を評価で終わらせず、それをパフォーマンスに連動させていくことが、成熟した産業社会における評価のあり方だ。(317頁)
昨今、企業組織において評価のウェイトが低くなってきている。GoogleやGEの事例をもとに、評価プロセスの簡素化を促そうとする日本企業も多いようだ。Googleの事例は素晴らしいものだし、今後、目指すべき方向の一つとして有力なものだとは思う。しかし、現在の日本企業が、Googleの猿真似をして、評価プロセスを削除したり簡略化することには重大な欠陥があるのではないか。つまり、パフォーマンス・マネジメントの機能としての評価という価値を減衰してしまうことを危惧しているのである。
Googleの事例は様々な本で紹介されており、同社ではフィードバックが機能しているために、評価を活用することで育成や動機付けを行う必要性は相対的に少ない。翻って、そのような企業が日本にはどれほどあるのだろうか。もし、フィードバック文化がなく、パフォーマンス・マネジメントの土壌がない日本企業において、評価プロセスを簡素化しすぎると、職務を通じて人が育つ環境が破壊されてしまいかねない。この点をよく考えて、Googleをはじめとしたアメリカ企業の事例を読み解いて学んだ方が良いだろう。人事実務に携わる身として、自戒を込めて、強くそう思う。
【第684回】『フィードバック入門』(中原淳、PHP研究所、2017年)
【第669回】『関わりあう職場のマネジメント【3回目】』(鈴木竜太、有斐閣、2013年)
【第610回】『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』(P.F.ドラッカー、上田惇生編訳、ダイヤモンド社、2001年)
【第588回】『アライアンス』(リード・ホフマンら、篠田真貴子監訳、ダイヤモンド社、2015年)
【第568回】『ジャスト・イン・タイムの人材戦略』(ピーター・キャペリ、若山由美訳、日本経済新聞出版社、2010年)
【第425回】『人事評価の「曖昧」と「納得」』(江夏幾多郎、NHK出版、2014年)
【第669回】『関わりあう職場のマネジメント【3回目】』(鈴木竜太、有斐閣、2013年)
【第610回】『マネジメント【エッセンシャル版】基本と原則』(P.F.ドラッカー、上田惇生編訳、ダイヤモンド社、2001年)
【第588回】『アライアンス』(リード・ホフマンら、篠田真貴子監訳、ダイヤモンド社、2015年)
【第568回】『ジャスト・イン・タイムの人材戦略』(ピーター・キャペリ、若山由美訳、日本経済新聞出版社、2010年)
【第425回】『人事評価の「曖昧」と「納得」』(江夏幾多郎、NHK出版、2014年)
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