私たちにとって、記憶とはどれほど大事なものなのだろうか。記憶が不鮮明だと気持ちが悪いし、記憶が失われることに私たちは恐れを抱く。また、記憶を共有していることが、他者どうしを結びつける要素にもなり得る。
本書は、人々から記憶を失わせる竜を巡る物語である。竜を倒そうとする者、不便は感じながらも安定した社会を守るために竜の存在を守ろうとする者、記憶を失って路頭に迷う者。そうした人々と交流しながら、主人公の老夫婦は、偶発的な経緯で竜を倒す旅に同道することとなる。
二人で一緒に歩いてきた道ですもの、明るい道でも暗い道でもあるがままに振り返りましょう。(364頁)
いざ竜が亡くなって記憶が戻るかもしれないという時に、夫婦は、喜びとともにあるいはそれ以上に不安を抱く。しかし、不安を抱きながらも、記憶がどのようなものであろうとも、お互いが歩んできた道は変わらず、そこに喜びを見出す。
当たり前に私たちにあるものを、大事にしたいと思った。
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