2017年12月9日土曜日

【第784回】『サピエンス全史(上)』(ユヴァル・ノア・ハラリ、柴田裕之訳、河出書房新社、2016年)

 タイトルが示す通り、気宇壮大な書籍である。人類の歴史における三つの革命として、認知革命、農業革命、科学革命を挙げ、それぞれが生じた背景とそのインパクトについて丹念に述べられている。詳細を細かく理解するというよりも、歴史の大きな流れを追うことで、ダイナミックに私たちの来し方を把握することができる。

 この精神的限界のせいで、人類の集団の規模と複雑さは深刻な制約を受けた。特定の社会の人口と資産の量がある決定的な限界を超えると、大量の数理的データを保存し処理することが必要となった。人間の脳にはそれができないので、体制が崩壊した。農業革命以降、人類の社会的ネットワークは何千年間も、比較的小さく単純なままだった。
 この問題を最初に克服したのは、古代シュメール人だった。(中略)紀元前三五〇〇年と紀元前三〇〇〇年の間に、名も知れぬシュメール人の天才が、脳の外で情報を保存して処理するシステムを発明した。(中略)シュメール人が発明したこのデータ処理システムは、「書記」と呼ばれる。(157~158頁)

 認知革命に関して、文字の発明が与えたインパクトの大きさは、淡々と書かれながらも説得力がある。私たちが当たり前のように活用している言葉や文字というものの抽象性と、それに伴う汎用性がよく理解できる。言語を用いた抽象度の高いコミュニケーションが、ホモ・サピエンスを他の動物たちとを分けたのである。

 認知革命を境に、ホモ・サピエンスはこの点でしだいに例外的な存在になっていった。人々は、見ず知らずの人と日頃から協力し始めた。彼らを「兄弟」や「友人」と想像してのことだ。だが、この「兄弟関係」は普遍的なものではなかった。どこか隣の谷には、あるいは山脈の向こうには、相変わらず「彼ら」の存在を感じられた。最古のファラオであるメネスが紀元前三〇〇〇年ごろにエジプトを統一したとき、エジプトには国境があって、その向こうには「野蛮人」が潜んでいることは、エジプト人たちには明らかだった。野蛮人はよそ者で、脅威であり、エジプト人が望んでいる土地あるいは天然資源をどれだけ持っているかに応じてのみ、関心を惹いた。人々が生み出した想像上の秩序はすべて、人類のかなりの部分を無視する傾向にあった。(212~213頁)


 認知革命は他者とのコミュニケーションを変えただけではなく、連帯のあり方をも変えた。これがコミュニティの範囲を大きく変え、自らが住む地域以外への想像を可能とし、見たこともない人々との間接的な協働を可能とした。


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