稀代の小説家がデビュー作で何を語り、どのような物語を展開させるのか。著者のエッセーである『職業としての小説家』を読んで改めて興味を抱き、遅まきながら本作を読もうと思い立った。
小説の作品の良し悪しが分からない身としては、著者らしい作品だなぁと思いながら読んだ。細かな巧拙はあるのだろうが、著者の後年の作品と同じ文体だと思った。
「良い小説さ。自分にとってね。俺は、自分に才能があるなんて思っちゃいないよ。しかし少なくとも、書くたびに自分自身が啓発されていくようなものじゃなくちゃ意味がないと思うんだ。そうだろ?」(117頁)
著者が自身に言い聞かせているのかと邪推してしまうが、どうなのだろう。お節介的な推測はさておき、自分自身が今後まとまった文章を書くのであれば、この言葉は響くし、意識したいなと思った。究極的には読者を意識するよりも、書くというプロセスやその結果としての文章によって自分自身の可能性を拡げ、気づきをゆたかにしたいものだ。
あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。
僕たちはそんな風にして生きている。(152~153頁)
著者の淡々とした文章は、変に力が入ってなくて、いいなと思う。他の人に読ませようとか、あからさまに他者を意識しているような文章ではなく、こうした文体を身につけたいものだ。
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