三島の随筆というのは小説とは毛色があまりに違って戸惑いながらも、その一方で彼の意外な側面が見えて興味深かった。道徳という、ともすると重苦しいテーマについて、皮肉を交えて軽快に述べる。
何も自信を持てというのではない。自信とは実質を伴う厄介な資格である。誰でもなかなか本当の自信などもてるものではない。しかし己惚れなら、気持の持ちよう次第で、今日からでも持てるのです。(74頁)
セルフエフィカシー(自己効力感)とセルフエスティーム(自己肯定感)の関係性と捉えればよいのだろうか。成長実感と繋がる自己効力感を私たちは意識しすぎてしまうことがあるが、今の多様な価値観の統合体としての自分自身を認めることを意識したいものである。
知性を、電気洗濯機や冷蔵庫並みの、生活の便利のための道具と考えているのは、本当の知性の人ではなく、知性の人とは、知性自体の怪力乱神的な働きに、本当の恐怖を感じている人のことをいうのですから。(258頁)
知性について考えさせられる。効率性や利便性を向上させることが知性なのではなく、その持つ危険性を意識できることが知性であるという三島の言葉に耳を傾けたい。
【第723回】『豊饒の海(一)春の雪(2回目)』(三島由紀夫、新潮社、1969年)
【第724回】『豊饒の海(二)奔馬(2回目)』(三島由紀夫、新潮社、1969年)
【第725回】『豊饒の海(三)暁の寺(2回目)』(三島由紀夫、新潮社、1970年)
【第726回】『豊饒の海(四)天人五衰(2回目)』(三島由紀夫、新潮社、1971年)
【第724回】『豊饒の海(二)奔馬(2回目)』(三島由紀夫、新潮社、1969年)
【第725回】『豊饒の海(三)暁の寺(2回目)』(三島由紀夫、新潮社、1970年)
【第726回】『豊饒の海(四)天人五衰(2回目)』(三島由紀夫、新潮社、1971年)
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