失われた二十年を経て、がんばって働けば経済状況が上向き生活が良くなるという高度経済成長時のパラダイムは幻となった。しかし、それに替わる新しいパラダイムは何か、その中でどのようなマインドセットで私たちは日々の生活に臨むと良いのか。
本書では、我々が直面しているものは下り坂であり、それをゆっくりと、周囲の景色を楽しみながら下っていくというメタファーで語られる。各地域における実際的な取り組みを読み進めていくと納得がいくと共に、その取り組みの素晴らしさにハッとさせられるものも多かった。
一つの章の中で、女川(宮城県)について扱われていた箇所がある。二年前、当時在籍していた企業でのリーダーシップ開発を目的とした選抜研修を企画・運営していた際に、女川でのセッションを行ったことがある。その際のセッション自身や女川の方々との対話の中での気づきを思い出した。
これまでの「まちづくり」「まちおこし」に決定的に欠けていたのは、この自己肯定感ではなかったか。雇用や住宅だけを確保しても、若者たちは戻ってこない。ましてIターンやJターンは望むべくもない。選んでもらえる町を作るには、自己肯定感を引き出す、広い意味での文化政策とハイセンスなイメージ作りが必要だ。(73頁)
女川駅から海を望む景色の美しさは、まさにアートである。「千年に一度のまちづくり」というコンセプトに基づいて、景観も含めたデザインの素晴らしさを思い出した。あのようなデザインされたまちであれば、住む方々は自己肯定感を持ち、自分たちのまちに対するコミットメントも高まるのではないか。
これからの日本と日本社会は、下り坂を、心を引き締めながら下りていかなければならない。そのときに必要なのは、人をぐいぐいとひっぱっていくリーダーシップだけではなく、「けが人はいないか」「逃げ遅れたものはいないか」あるいは「忘れ物はないか」と見て回ってくれる、そのようなリーダーも求められるのではあるまいか。滑りやすい下り坂を下りて行くのに絶対的な安心はない。オロオロと、不安の時を共に過ごしてくれるリーダーシップが必要なのではないか。(150頁)
女川のまちづくりに関わる多様な組織や立場のリーダーたちと接していて感じたのは安心感である。この方々となら、困難なプロジェクトでも一緒にやり遂げられるのではないか、という安心感をおぼえた。外からワークショップで訪れた他所者に対してもオープンに接してくれる、こうした温かみがある自然体のリーダーシップが、今の時代に求められる一つのあり様なのかもしれない。
【第10回】『「働きたくない」というあなたへ』(山田ズーニー、河出書房新社、2010年)
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