「自民党」による「公務員」を対象とした「制度改革」をめぐる一連の動きは、特殊なイシューというよりは、どこの組織でも起こっているイシューのように思えた。何らかの制度を変えようとすれば、ステイクホルダーごとに多様な利害や思惑が絡み合うことになり、文字通り一筋縄では行かないものである。
同じ自民党による制度改革・行政改革のイシューでも機能したケースと、本ケースのように頓挫したケースとがあるが、その違いは何か。
公務員制度改革のような多様な利害が絡み、抵抗勢力が自らの足元の官僚機構である場合、いくら渡辺や甘利などの行革相が奮闘しても、法案の成立という大事までは成し得ない。繰り返しになるが、中曽根や橋本の行革も首相自身のリーダーシップによって成し遂げられている。これまで本書が紹介してきたように、今回の改革は、公務員の人事に関する権限を政治の側に再配分しようという試みであり、官僚制全体を相手にしている。その点でシングルイシューである国鉄や郵政の民営化よりもその難易度は高い。(291頁)
私たちは、郵政民営化が(どこまで実現できたかはさて置いて)成功したように、公務員制度改革が実現しなかったのかは自民党の瑕疵によるものであると安易に捉えがちだ。しかし、郵政の所管省庁である総務省を対象とした郵政民営化と、全省庁を対象とした公務員制度改革とはスコープがあまりに異なる。同じ俎上に乗せて議論することは公正ではないのだろう。
ただ、著者が指摘する首相のリーダーシップを主要因とする考え方には少し疑問も感じる。首相という外的役割としての「リーダー」のリーダーシップに期待するのは、イシューが多様で複雑であるほど難しく、むしろ多様な主体によるリーダーシップの共鳴現象が必要なのではないか。私が理解する限りでは、郵政民営化も、小泉首相(当時)のリーダーシップばかりが注目されたが、他の主体のリーダーシップの発揮が十分ではなかったために、その事後の実行・フォローで骨抜きにされた側面もあったのではないか。
他山の石としたい良質なケースに迫真の描写で迫った力作であった。
【第817回】『宿命』(高沢皓司、新潮社、2000年)
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