2019年7月14日日曜日

【第968回】『このせちがらい世の中で誰よりも自由に生きる』(湯浅邦弘、宝島社、2015年)


 老荘思想をここまで意訳的に解説してくれるとうれしい。「簡単な」本の功罪はあれども、やはり何かを入門的に学ぶためにはアクセスしやすい書籍というものはありがたいものである。本書では、老子と荘子の思想が余すことなく描かれている。

老人「老子は無為を説いておるが、『バカでいい』なんてことは言っておらん。殊更な作為をしないと言ったが、これはたとえできたとしても、あえて何もしないことを選ぶとも言える。それに、この後には『天下を取るは常に事無きを以てす』と続き、事を起こさないことを天下を取る条件にあげておる」(44~45頁)

 著者は、老子は老獪だとしてこの言葉を例にとって説明をしている。何もしないとはすなわち努力をしないということではなく、やりすぎを戒めているということなのかもしれない。世の中から離れるのではなく、むしろ世の中とかかわりながら、どのように自分自身を処するのかを説いていると考えると、老子の主張も現実的で面白い。

老人「そう、それだけ。心の持ちようをちょっと変えるだけじゃよ。ただ、もし自分からアクションを起こして状況を打開したければ、『論語』や『孫子』を読めばいい。ワシも読んでおるが、どちらも含蓄に溢れているし、非常に素晴らしい書物じゃ。だが、誰もがその通りにできるとは限らん。そんなときに『こんな考え方もあるんだ』と老荘の教えを知ることができれば、いい意味で肩の力が抜けると思うんじゃ」(169~170頁)

 老荘の世界観には憧れる。しかし、老荘が否定している(ように見える)孔子の世界観にも惹かれる身として、どのように対処すればいいか、迷ってきた。しかし、この箇所を読んで救われる思いがした。勝手に解釈すれば、自分で勝手に選べばいいのである。自分の引き出しとして、老荘も論語も持てば良いのであり、それが自由ということなのではないだろうか。

【第668回】『ビギナーズ・クラシックス 老子・荘子』(野村茂夫、角川学芸出版、2004年)
【第377回】『荘子 第一冊』(金谷治訳注、岩波書店、1971年)
【第749回】『老子』(金谷治、講談社、1997年)
【第841回】『求めない』(加島祥造、小学館、2007年)

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