2019年7月20日土曜日

【第969回】『ハーバードの人生が変わる東洋哲学』(M・ピュエットら、熊谷淳子訳、早川書房、2018年)


 タイトルがキャッチーな書籍は、今ひとつな品質である時は目を当てられないほどであるが、本書は面白かった。原題は「The Path」であり、孔孟も老荘も重視している「道」をテーマとしていることがわかるだろう。著者が行ったハーバードでの講義を書籍化したものであり、読みやすいのもまたありがたい。

 自己を定義することにこだわりすぎると、ごくせまい意味に限定した自己ー自分で強み、弱み、得手、不得手だと思っていることーを基盤に未来を築いてしまうおそれがある。中国の思想家なら、これでは自分の可能性のほんの一部しか見ていないことになると言うだろう。わたしたちは、特定の時と場所であらわれる限られた感情だけをもって自分の特徴だと思い込み、それが死ぬまで変わらないものと考えてしまう。人間性を画一的なものと見なしたとたん、自分の可能性をみずから限定することになる。(30~31頁)

 あるべき自己は不偏的なものではない。だから、真の自分を探しても構わないが、それはその時点におけるものにすぎず、私たちは自分自身が持つ多様な可能性に意識を当て、柔軟に自身を開発することが必要だ。

 しかし、変化し続けることには不安を伴う。一歩踏み出すことには勇気がいり、常に一歩踏み出せと言われても自信がない人は多いだろう。そうした時に変化の時代における生き方を様々なアプローチで問うて来た中国古典の著者たちの至言に耳を傾けてみたい。

【第968回】『このせちがらい世の中で誰よりも自由に生きる』(湯浅邦弘、宝島社、2015年)
【第930回】『論語 増補版』(加地伸行、講談社、2009年)

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