目的と現状とのギャップが問題であり、企業における問題を解決するために戦略が存在する。戦略とは「ないもの」を表す概念である、と喝破する著者の指摘は鋭く、的確である。問題を解決するための戦略がない状態、すなわち戦略の不全は企業にとって危機的な状況であるが、残念ながら日本企業の多くは構造的に戦略不全に陥りやすいという。
その理由として、部門間のコーディネーションを重視してトップダウンで戦略が立案・実行されるアメリカ型に対して、日本型では社員一人ひとりのモティベーションが重視されるという点が挙げられている。そのために、社員の中長期的な成長およびコミットメントを担保するために、ボトムアップで各部署が独自に方向性を創り出すことが日本型企業ではよく見られることとなる。結果として、部署ごとの戦術が蓄積されるばかりで、企業として戦略が創出されず、現場の力が増すばかりで組織全体としての収益が出づらい構造となる。
たしかにこうしたアメリカ型と日本型との対比で表れる企業は、理念型にすぎない。しかし、日本企業の戦略不全を考える上で、こうした理念型による比較は参考になる部分も多いだろう。日本企業の「失われた二十年」をマクロ経済要因により説明する通説を批判し、その構造から戦略不全を導き出す著者の指摘には首肯できるのではないか。
こうした構造要因に目を向けず、表面的にアメリカ型のノウハウを利用して戦略を導き出そうとする姿勢に著者は否定する。ハウツー本やフレームワークをもとに戦略を創り出すことができない理由はシンプルだ。戦略の本質は異質化にあるからである。
異質化とは、製品それ自体が異質化されていることを必ずしも意味しない。同じような製品であっても、事業レベルで他社と異質化できれば、収益性は全く異なってくる。事業レベルで異質化するためには、企業全体のコーディネーションに工夫を加えることが必要とされることは明らかであろう。
このように、戦略の根幹を異質化に置いて検討すれば、ハウツー本やフレームワークをビジネスに適用して戦略を創り出すことが拙劣であることは自明である。ハウツーやフレームワークは誰もが同じ回答を導き出す標準化を目指すものであり、その本質からして異質化とは相容れないものだからである。
むろん、同じ組織で働く社員どうしが意思を共有してコミュニケーションを取るためには企業独自の標準化されたプロセスが有効であることは言うまでもない。ただし、戦略を創り上げ、戦略に即して行動するという目的のためには適していないことに、私たちは留意するべきであろう。
『医薬品メーカー勝ち残りの競争戦略』(伊藤邦雄、日本経済新聞出版社、2010年)
『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン、翔泳社、2001年)
『ザッポス伝説』(トニー・シェイ著、ダイヤモンド社、2010年)
『医薬品メーカー勝ち残りの競争戦略』(伊藤邦雄、日本経済新聞出版社、2010年)
『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン、翔泳社、2001年)
『ザッポス伝説』(トニー・シェイ著、ダイヤモンド社、2010年)
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