2015年5月9日土曜日

【第442回】『企業ドメインの戦略論』(榊原清則、中央公論新社、1992年)

 ドメインにはこのような戦略領域としての側面と、すでに具体化された現実の事業領域の側面とがある。その両者がここでいうドメインである。
 現実の事業領域としてのドメインは、既存の事業・製品のリストや取引先、顧客層などをあげていけば、すべてではないにせよ、かなりの程度記述できるであろう。従来の研究の多くは主としてドメインのこの側面に焦点を当てて議論してきた。しかし、戦略論の立場からみれば戦略領域としてのドメインがより重要である。(12頁)

 ドメインという言葉は領域というように訳される。戦略論のコンテクストにおけるドメインとしては、上記のような意味合いとして用いられると著者は指摘する。では、具体的にはどういった次元からドメインは構成されるのであろうか。著者は、端的に三点を挙げている。

 (1)「空間の広がり」(狭い 対 広い)
 (2)「時間の広がり」(静的 対 動的)
 (3)「意味の広がり」(特殊的 対 一般的)(42頁)

 三つのそれぞれの広がりが、広く、動的で、一般的である方が、そのドメインのもつ広がりは大きくなる。それを「含みがある」と肯定的に表現することもできるだろう。しかし、それと同時に、あまりに拡散しすぎるのも問題があるとして著者は以下のように指摘する。

 三つの次元のそれぞれにおけるプラスの方向が、なんら限定なしに、どこまでも望ましいわけではないということである。空間の広がりが大きすぎると活動の境界が不明になり、焦点が定まらない危険がある。変化性が高すぎるドメインの定義は、安定的・持続的な事業活動のもつメリットを見失わせる危険がある。さらに、ドメインの一般性が高すぎる場合には、その企業経営の独自性や固有の存在意義が失われる危険が出てくる。これら三つの危険は、要するに企業のアイデンティティが拡散し、企業が「自分」を見失ってしまう危険である。(45頁)

 「広がり」が大きすぎると、企業の独自性が薄れるリスクがあり、結果的に企業独自のアイデンティティまでが失われる危険性があるのである。ではどうすればいいのか、と問うのではなく、中庸という概念を考えたくなるような捉え方ではないだろうか。

 当事者も驚くこのようなダイナミックな現象は、演繹的分析に基づく事前の緻密な計画だけでは生まれないものである。製品の意味が相互作用的プロセスを経て生まれてくるというここでの視点は、このようなダイナミックな現象を解明するカギなのである。
 (中略)
 製品の意味は、以上にみてきたように企業だけが創るものではないのである。それは相互作用的なプロセスを経て生まれてくる。しかしながら、意味領域の生成に企業が影響を与えることはもちろん可能である。そのための有力な手段は、「停泊点」(アンカレッジ・ポイント)と「スキーマ」の提供である。
 停泊点というのは、もともと船が錨を降ろす場をさす言葉である。ここでは、ものごとを判断する際に基準として参照される事物を意味する言葉として使われている。またスキーマとは、最も抽象的には「一定の構造をもった知識の集合」を意味する。(145~146頁)

 ドメインをもとにして企業が製品を捉えると、そこには企業とそれを取り巻く環境との相互影響が製品に意味を付与していく様をみることができる。製品に意味が付与されていくように企業がデザインするためには、停泊点とスキーマとを意識することが重要である、という著者の提言に着目するべきであろう。


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