2015年5月24日日曜日

【第447回】『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(仲正昌樹、作品社、2014年)

 アーレント・ブームとも呼ばれる現状の背景には何があるのだろうか。そこには、極端な考え方を教え込もうとしたり、二者択一を迫るような言説構造が正しいと思われるような風潮に対する抵抗があるように思える。そうした精神的抵抗を支えるバックボーンとして、以下に著者が端的に示すようなアーレントの基本的なアプローチがあるのではないか。

 キリスト教的な「善」に対する批判に見られるように、一つの原理を純粋に追求するとどういう袋小路に陥っていくのか示したうえで、読者を考えこませるのが、アーレントの持ち味だと思います。(144頁)

 こうしたアーレントの考え方は、一つの古典として成立しているアリストテレスの読解にも彼女の独特な受け取り方として示されている。

 アリストテレスを普通に読めば、サンデルのように「共通善」の理想を強調することになると思いますが、アーレントは「共通善」を固定化してしまうことに抵抗し、そうでない方向にアリストテレスを読もうとしているわけです。(42頁)

 アリストテレスを同じように用いながらも、その用い方がコミュニタリストの第一人者であるサンデルとアーレントとでは異なると著者は解説している。こうしたアーレントの独特な視点によって捉えられる仕事に対する考え方が、興味深い。

 アーレントが拘っているのは、私たちの認識や活動の基盤になっている「共通世界」が崩壊しているということです。「共通世界」を支えているのが、耐久性があり、人々の関係性を生み出すのに役立つ「物」を産出する「仕事」です。それが「仕事」の定義です。それは、普通の言葉遣いではありませんが、アーレント用語として受け容れて下さい。「仕事」が衰退して、「労働」が優位になることで、私たちの生活から、耐久的な物がなくなり、すぐに消費されてなくなるモノばかりになってしまうわけです。(210~211頁)

 はたらくということを考えさせられる箇所である。


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