2015年11月2日月曜日

【第509回】『濹東綺譚』(永井荷風、新潮社、1951年)

 途中まで書き進めてきた小説を書き上げようとする主人公の視点によって淡々と物語が展開される。分かりやすいクライマックスが訪れることもなく、粛然とした状態のままに物語は終わりを迎える。

 毎夜電車の乗降りのみならず、この里へ入込んでからも、夜店の賑う表通は言うまでもない。路地の小径も人の多い時には、前後左右に気を配って歩かなければならない。この心持は「失踪」の主人公種田順平が世をしのぶ境遇を描写するには必須の実験であろう。(41頁)

 小説家が小説家を描くという、屋上屋をかけるような書かれ方によって、不思議と静謐な印象を本作には感じる。ドラマチックな小説も良いが、静かな小説というものも良いものだ。

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