キャリアという言葉は、誤解して受け取られたり、否定的に捉えられたりしてしまうことがある。人事管理や組織行動論を専門にしているごく一部の人々を除けば、決して分かりやすい概念ではないからであろう。その結果、キャリアという言葉を嫌うことによって、自分自身のキャリアについて考えられなかったり、充分にキャリア開発を行なえなくなってしまうという皮肉な事象も生じているのではないか。著者は、そうした状況を憂慮し、大学、学校、企業、NPOといった様々な組織において、キャリアという概念を広げる活動を展開されている。本書も、本日現在、Kindleで無料でダウンロードできるなど、キャリアの伝道師として真摯に活動される姿には、頭が下がる想いである。
本書は、タイトルにもある通り、キャリアという概念を否定的に捉えている方にこそ読んでいただきたい書籍である。そうした方々が気軽に手に取ってもらえるように、副題には「1時間で読める」という文言があり、実際に一時間前後で読み終えることができる。入門書として、また楽な気持ちでキャリアについて触れてみる書籍として、非常に適した一冊である。
では、そもそもなぜキャリアという概念を私たちは考える必要があるのであろうか。いくつか理由はあるが、端的に、ビジネスを取り巻く環境要因が変化し、私たちの仕事じたいも変化する、という変化の時代を生きるために重要な考え方だからである。以下からは、変化という側面に焦点を当て、変化に対応するためのキャリア理論としてサビカスのキャリア・アダプタビリティーに関する議論に着目してみたい。サビカスが提示するConcern、Control、Curiosity、Confidenceという4つのCを重視することによって、キャリアの変化に適応できる力を高めることができる、と著者はしている。その結果として、働く個人は、「自分の人生を自分の視点で見つめ直せる」(Kindle No. 427)という効用を見出すことができる。
自分自身のキャリアを自らの視点で見つめ「直せる」という表現が示すように、ここでのキャリアの捉え方は、静的なものではなく動的なものであることに留意する必要がある。変化の時代においては、キャリア意識そのものもまた、動的に変化し続けるものであり、視点によって異なる意味合いを有する柔軟な考え方が求められる。こうしたサビカスの理論に影響を与えたものが、フーコーの提唱する言説である(Kindle No. 443)という指摘は興味深いし、充分に首肯できるものであろう。
このように考えれば、サビカスのキャリア適応をはじめとしたキャリア構築理論の体系は、私たちが抱く「さまざまな思い込みに対し、自分のキャリアを言葉で再構築し、自分を見つめ直すための理論」(Kindle No. 459)であると言える。私たちの多くは、安定を求めて変化を嫌う弱い存在なのではないだろうか。目標を宣言してその目標達成のためにカスケーディングした行動に邁進したり、固定的に自分のミッションやバリューを捉えることで、安心して生きていきたいと考えてしまう。むろん、目標を創り上げたり、理念や価値観を紡ぎ出すことが悪いわけではない。そうしたものを固定的に捉えて、自分自身の内なる可能性に目を向けなくなり、変化を否定的に捉えてしまうことが問題なのである。だからこそ、自身の考え方を相対化し、意味づけし続けるための一つのツールとして、私たちは、キャリア適応の考え方を意識するのが好ましいのではないだろうか。
『パラレルキャリアを始めよう!』(石山恒貴、ダイヤモンド社、2015年)
『組織内専門人材のキャリアと学習ー組織を越境する新しい人材像ー』(石山恒貴、日本生産性本部、2013年)
改めて、キャリアについて考える。
『「働く居場所」の作り方』(花田光世、日本経済新聞出版社、2013年)
『フーコー・コレクション1 狂気・理性』(M.フーコー、筑摩書房、2006年)
『組織内専門人材のキャリアと学習ー組織を越境する新しい人材像ー』(石山恒貴、日本生産性本部、2013年)
改めて、キャリアについて考える。
『「働く居場所」の作り方』(花田光世、日本経済新聞出版社、2013年)
『フーコー・コレクション1 狂気・理性』(M.フーコー、筑摩書房、2006年)
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