Googleの人事トップが自社の人事施策を詳らかに記した本書。ビジネス書というものは、そこに書かれているものを鵜呑みにしてそのまま自社に適用しようとしても無理が生じる。元のものと元の状態で適用としてうまくいかずに「使えない」というのではなく、自社にとって適切なものを、いったん抽象化して具象化する。こうした謙虚な知的作用の繰り返しを行なうことが、他社の事例から学ぶということではないだろうか。
示唆的な内容に富んだものであるが、ここではポイントを絞って書いていく。まずはマネジャーについて。
問題は「最高の人材」の定義が人によって異なることだ。あるいは、あなたにとっての最低の人材が私にとっての最高の人材より優れている可能性もある。この場合、全員を昇進させるべきであると同時に、ひとりも昇進させるべきではないことになってしまう。組織全体が最も公正な状態になるよう求めるならーーそうなれば社員は会社をいっそう信頼するようになるし、報酬はいっそう有意義なものとなるーーマネジャーはこうした権力を手放し、いくつものグループを通じて結論が調整されるようにしなければならない。
これらの昔ながらのアメとムチを使えないとしたら、マネジャーはどうすればいいのだろうか?残された道はひとつしかない。グーグルのエリック・シュミット会長の言葉を借りれば「マネジャーはチームに奉仕する」のだ。(Kindle No. 467)
マネジャーは権力を徒に行使するべきではない。部下に対して上から指示を下すことも時には必要であろうが、チームが価値貢献できるようにチームに対してエネルギーを注ぐ
こと。自身のいる組織という個別具体的な状況を絶対視するのではなく、そうした状況を客観視し、チームとしてどのように対応するべきかを考える。これがマネジャーに求められる最も大切な役割の一つなのであろう。
次に、採用について。
この問題に対処すべく、私たちはそれぞれの求職者が受ける面接の回数を思い切って減らした。また、紹介してもらった人向けに最高のサービスを開発した、紹介してもらった人には48時間以内に電話をかけ、紹介してくれたグーグラーには求職者の状況に関する最新情報を毎週提供するのだ。(Kindle No. 2014)
社員紹介制度に対する不満への対処方法である。極めてテクニカルな内容であり、一つひとつのアクションは難しいことではない。しかし、社員紹介制度を企画・運用したことがある方にとっては自明であろうが、これらを愚直にやり続けることは存外手間であり、完遂するには時間と労力が掛かる。そうだからといってできない理由にはならないだろう。なぜなら、グーグルのような数万人規模の大企業でかつ就職希望者が多い企業において、きめこまかな対応ができているのであるから、他の企業でできないことはないだろう。
採用マシーンをつくるための第1段階は、あらゆる社員をリクルーターに変えるべく、人材の紹介を依頼することだ。しかし、友人をひいきするという誰もが持っている自然なバイアスを抑制するため、客観的な立場の人に採用を決めてもらう必要がある。組織が成長すると、第2段階として、最高のネットワークを持つ人々に優秀な人材の確保にもっと時間を割いてくれるよう頼む番だ。人によっては、それがフルタイムの仕事になるかもしれない。(Kindle No. 2136)
採用は、Hiring Managerや人事のみが扱うイシューではない。全ての社員をリクルーターとして捉えるということは、採用をイベントではなく日常業務の一つとして捉える視座の変容を意味する。
第三に、業績管理について見てみよう。
多くの組織で実行されている業績管理は、規則にもとづく官僚的プロセスになっていて、実際に業績を改善するというより、管理自体が目的になってしまっているということだ。社員もマネジャーもそれを嫌っている。人事部門でさえ嫌っているのだ。(Kindle No. 3563)
手段の目的化としての業績管理に意味はない。というよりも、多くの手段の目的化と同じように、むしろ害悪となりかねない。著者の痛烈な指摘に、公然と反論できる人事担当者がどれほどいるだろうか。
多くの企業が業績評価を完全に放棄しつつあるのに、グーグルが評価システムにこだわるのはなぜか?
それは公正さのためだと私は思う。
業績評価はツールであり、マネジャーが給与や昇進について決定を下す過程を簡素化するデバイスだ。ひとりの社員として、私は構成に処遇されたい。(中略)業績評価がしっかりしていれば、社内の異動もしやすくする。(中略)数百人以上のメンバーがいるチームなら、社員は個々のマネジャーよりもしっかりしたシステムのほうが安心して信じられる。それは、必ずしもマネジャーが不当だったり偏見を持っていたりするからというわけではなく、キャリブレーションを含む業績評価の手続きによって、不当さや偏見が積極的に排除されるからなのだ。(Kindle No. 3852)
日本の多くの企業では、業績管理システムは一つの主要な人事管理システムとして機能しているが、米国ではその潮流に変化が生じてきている。そうした中でグーグルがなぜ業績評価を続けているのか。著者は、その理由を端的に、マネジャーの恣意性を排除した客観的かつ簡素なプロセスによって給与や昇進を構成に行なうための手段であるからとしている。
最後に、著者がグーグルで得られる経験の要諦について述べている印象的な箇所を引用して、本稿を終えることとする。
本書の執筆に際して私が願っていることのひとつは、読者がみずからを創業者だと考えるようになってほしいということだ。会社全体の創業者ではないとしても、チーム、家族、文化の創始者なのだと。グーグルの経験から得られる基本的な教訓は、自分は創業者になりたいのか、それとも従業員になりたいのかを最初に選ばなければならないということだ。これは、文字どおりの所有権の問題ではない。態度の問題なのだ。(Kindle No. 783)
『ドラッカーと論語』(安冨歩、東洋経済新報社、2014年)
『人事評価の「曖昧」と「納得」』(江夏幾多郎、NHK出版、2014年)
『グローバル時代の人事コンピテンシー』(D・ウルリッチら、日本経済新聞出版社、2014年)
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