著者の文章を読むのは心地がよい。おそらく、誠実な想いで、飾らない言葉で、紡ぎ出された言葉からなる文章からではないだろうか。本書もまた、自身を扱った重たいテーマであるにも関わらず、肩肘張らない筆致によって、リラックスして噛み締めながら読むことができた。
その悲しみに打ちひしがれながらも、わたしはどこかで、母(オモニ)という「運命」から解き放たれていくような安堵感も味わっていた。(20頁)
母への愛情や、母を大事にする想いに終始する本書において、母の死の直後の感想を記したこの部分だけが異彩を放っているようにも感じられる。しかし、深い愛情によって母を送り出した後には、こうした開放感のような感覚をおぼえるものなのかもしれない。それは、薄情なのではなく、相手を大事にし尽くした後に感じる達成感のようなものなのではないだろうか。
すべてが変わり、そして変っていないように思えた。フーッと深い息を吐き出すと、頭上はるか遠くで鳶の鳴く声が聞こえた気がした。(296頁)
母の死後に、母のルーツである故郷を訪れた著者。気負わないタッチで、美しい描写が為されるので、著者の文章を読みたくなる。
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