組織開発(OD)を学んでいなかった四年前にはじめて本書を読んだ。その状態でも興味深く読めた部分もあったが、腑に落ちない、というよりイメージできない部分もまた多かった。
その後、縁があって、本書の訳者でもある方をはじめとしたODのプロフェッショナルの方々と仕事をする機会をいただいた。今から振り返ると、贅沢な時間であり、学びが深いプロジェクトであった。リーダーシップ・ディベロップメントと管理職研修においてU理論の要素を取り入れるべく、内容を一緒に企画させていただき、共同でファシリテーションを行った。準備段階でのやり取りや、ファシリテーションの中で参加者の方々も交えたやり取りからフィードバックを得ることは多く、何より、たのしかった。
HRBPとして働く中ではU理論の世界観を直接的に活用する場面は皆無であった。しかし、一度離れてみたことが良かったのか、いま新たにU理論を活用したいと思える複数のプロジェクトで遭遇している。
やや前置きが長くなったが、こうした経緯で、四年ぶりに本書を紐解くこととなった。一度どっぷりと経験したために、以前とは読んで印象を受ける部分が全く異なっていた。自分(たち)の活動を振り返りながら、今後に活かしたいと思った大事な部分をまとめていく。
私にとって最も重要なポイントは、四つの「会話」の領域がまとめられた部分である。305頁にある図15ー3を一部加筆・修正した以下を参照いただきたい。
意識の領域構造
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領域
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特徴
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(1)私の中の私 | 1.ダウンローディング | 「相手が受け容れ易いこと」に基づいて話す 礼儀正しい決まり文句、空疎な言い回し 自閉的システム(自分の考えていることを言わない) |
(2)それの中の私 | 2.討論 | 「自分が考えていること」に基づいて話す 互いに異なる考え方:私には私の考え方がある 適応的システム(自分の考えを言う) |
(3)あなたの中の私 | 3.対話 | 「全体の一部としての自分自身を観る」から話す 防衛反応から異なる意見の探究へ 自己内省システム(自分で内省する) |
(4)今の中の私 | 4.プレゼンシング | 「自分と他者の境界を超えて流れているもの」から話す 静寂、集合的創造性、流れ 生成的システム(アイデンティティの転換:真正の自己) |
第一のレベルでは、私たちが問題として捉えているものを、他人事として話す。問題を困ったこととして半ば自嘲的に話すことで、他者と表面的な共感を覚えながら快適に話すことができる。
問題を明確にした上で、問題に対して主体的に取り組もうと主張するのが第二のレベルの会話である。それぞれが自己の主張をするのであるから、異なる主張が多々出てくることになる。必ずしも対立し合う主張にはならず、多様な主張を理解し合うという場面にもなり得るだろう。
私たちの日常的なビジネス場面においては第一のレベルと第二のレベルに留まることがほとんどである。両者に共通するのは、問題と自分自身を切り分けているということである。つまり、問題だけを話すのが第一レベルであり、問題と自己とを分けてどう関わるかを話すのが第二レベルであり、問題と自己とを切り分けるという意味では同じである。もちろん、第二のレベルで解決できる場面もあり、いわゆる論理的思考に基づく問題解決が有効なケースもあるだろう。しかし、問題が多様な要素によって構成され、その要素が変化する現代社会においては、予定調和を前提とした静的な問題解決で対応できる場面は限られ、その領域は狭くなっているのではないか。こうした状況に対処するためには、第三のレベル以下に深掘りをすることが重要となってくる。
第三のレベルでは、問題と自分とが一体であり、問題を生み出し構成する自分自身という立ち位置を取る。問題を生み出している自分ということは一見すると認めづらい考え方であろう。しかし、問題を構成しているのが自分であると納得すれば、自分自身のあり方を変えることで、問題のあり方を変えることができるというパラダイムへと変わることができる。塩野七生が『ローマ人の物語』のトロイ戦役で述べたように、システムは外からの攻撃に対して強い一方で、内側からの攻撃には脆いものである。つまり、自分が問題を構成する一つの要素であれば、その問題を自分が中から他の要素と連携しながら変えていくことができるのである。
こうして問題と自分とが一体であると捉えた時に、自分とは一体なにものなのかという問いが生じてくる。この状態に至ると、過去から積み上げてきた自分と、将来において生じ得る自分自身の多様な可能性という二つから、自分自身が生成するというプレゼンシングに繋がる。この考え方は、以下の部分に目を通していただければ、より理解いただけるだろう。
我々はみな、一つではなく二つである。個人やコミュニティはそれぞれ一つではなく二つである。一方では、我々は過去から現在への旅を通してできあがった個人やコミュニティ、つまり現在の自己である。他方では、別の私が存在する。眠っている自己、つまり、これからの旅を通して生み出され、命を与えられ、現実になるのを我々の中で待っている自己がある。プレゼンシングはこの二つの自己を結合するプロセスである。未来から我々の真の自己へ近づいていくことだ。(248頁)
現時点でも、当然ではあるが、この豊かな内容を包含する書籍を全て理解し切ったとは考えていない。近い将来における様々な取り組みを経て、再び読み直した時に私が何を感じるのかに、興味がある。
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