2016年9月19日月曜日

【第620回】『定本 柄谷行人集 第2巻 隠喩としての建築』(柄谷行人、岩波書店、2004年)

 著者の書籍は難しいが、示唆的である。はっとさせられる言葉に出会った時の、心地よさを得られることができる。建築や言語にまつわる論評は読み手に様々なイメージを想起させる。

 建築は、イデアとしてのデザインが実現されたものだという考えほど、建築の実際からほど遠いものはない。それは、顧客との対話であり説得であり、他のスタッフとの共同作業なのだ。かりにデザインが最初にあったとしても、それは実現の過程で変えられていく。それは、ウィトゲンシュタインの言葉でいえば、やりながら規則を変えでっち上げていくようなゲームに似ている。(167頁)

 デザインという概念について考えさせられる。デザインとは、予め創作者が決めているものを形にしていくという文脈で語られることが多い概念である。しかし、ウィトゲンシュタインの言語ゲームを例示しながら、著者はそれを否定する。顧客や同僚といった多様な他者との相互交渉によって、デザインは磨き上げられるとしている。

 決まったものを粛々と形にするのではなく、ダイナミックに変化をたのしみながら形を作っていく。ジョブをデザインする際にも、キャリアをデザインする際にも、こうしたデザイン観で捉えていきたいものだ。


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