学術書を読むたびに思うが、読めば読むほど面白い。面白いというよりも、読み応えがあり、気づきを得られるポイントが多様にある。問題意識を練磨しながら現象を把握し、そこで得られた知見を抽象化することによって、噛めば噛むほど味が出てくるエッセンスを凝縮しているからであろう。
人事という事象に考えさせられ、思考を深めたいと思っている時に、本書を読み直したからか、興味深く読めた。前回、読んだ時にも勉強にはなった印象であるが、興味を強く持ちながら読み進めたという意味では、今回の方が印象的である。
パナソニックを事例にしながら人事部門の企業内でになってきた役割の変遷が読み応えがあった。かつて、1980年代半ばまでは「お世話人事」と形容され、「従業員第一をモットーに人事管理活動を実践」(64頁)することが人事部門には求められたという。そのため、「人事部門は他の職能部門の背景に退き、背後から組織の従業員を支えるというスタッフ機能」(64頁)という受身的な対応であったようだ。
しかし、米国追随型のビジネスから脱却し、自分たちで戦略を立案することが求められるようになった1980年代後半から「経営人事」を目指し始めることとなる。その結果、本社人事部が全社員に公平・公正な運用を行うことを主眼とするのではなく、各事業部ごとのビジネスの変化に合わせた支援を行う個別の人事企画が行われるように権限委譲された。
抽象化と具体化とを往還する論理展開を読み解くことで、自分自身が直面している人事イシューのヒントとなる。さらには、現時点で顕在化せずとも、時間が経つとひらめきに近い感覚として思いつくことができることがある。だからこそ、学術書を読み解こうと努力する営為が重要なのではないだろうか。
【第452回】『戦略的人的資源管理論』(松山一紀、白桃書房、2015年)
【第568回】『ジャスト・イン・タイムの人材戦略』(ピーター・キャペリ、若山由美訳、日本経済新聞出版社、2010年)
【第229回】『日本型人事管理』(平野光俊、中央経済社、2006年)
【第188回】『新ヒューマンキャピタル経営』(花田光世、日経BP社、2013年)
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