2017年10月9日月曜日

【第764回】『ローマ人の物語Ⅴ ユリウス・カエサル ルビコン以後』(塩野七生、新潮社、1996年)

 前巻までは文庫版で読み進めてきたが、ここにきてハードカバーで読むと、長い。カエサルが暗殺される本巻まで読み直そうと思っていたが、私にとっての今回の「最終巻」は、話とともに物質的にも重たいものだった。

 ルビコンを渡って後のポンペイウスとの内戦に勝利して絶対的な権力を獲得したカエサル。自身の理想に基づき、奢ることなく民主的な統治を行う様子からは、なぜ暗殺されなければならなかったのかと訝ってしまう。しかし、詳細は本書に詳らかであるので譲るとして、多くの人々にとって善政であっても、そこに疑いや懸念を抱く人は出てくる。さらには、他者からの尊敬を集めれば集めるほど、その人物が絶対的な存在になろうとしていなくても恐怖を覚える人は現れるのであろう。

 わたしが自由にした人々が再びわたしに剣を向けることになるとしても、そのようなことには心をわずらわせたくない。何ものにもましてわたしが自分自身に課しているのは、自らの考えに忠実に生きることである。だから、他の人々も、そうあって当然と思っている(27頁)


 カエサルがキケロに送った手紙の一節だそうだ。寛容をモットーとした政治を心がけたカエサルの想いが詰まっているように思えるし、のちの暗殺も想起させられる。


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