源平の合戦、南北朝の争乱、戊辰戦争。天下を二分した争いは長きに渡ることが普通であり、半日で終わった関ヶ原の戦いは特異な戦闘行動だったのであろう。上巻・中巻を読んでいると、必勝の短期決戦に持ち込んだ家康の戦略眼の素晴らしさが目立っていたが、最終巻では三成による乾坤一擲の勢いにも惹きつけられた。
それでも最後は、歴史の教科書で太字で書かれるように、徳川家康率いる東軍が勝利を収める。
緒を締め、忍び緒をむすび、やがて結びおわって、
ーー勝って兜の緒を締めよ、というのはこのことだ。
と、上機嫌で警句を吐いた。(438頁)
北条氏綱が述べたと言われるあまりに有名な警句を大勝利の後に家康は口にしたと著者は述べる。隙を見せず、着実に天下取りを遂行した家康にも似合う台詞である。
一方、三成が準備の段階で誤りを犯す様は、『失敗の本質』で描かれた日本軍の誤りを見るようだ。
「心配は要らぬ」
というのが、相変らずの三成の観測であった。観測というより信念であろう。信念というよりも自己の智恵に対する揺ぎなさが、三成の性格であったろう。三成が敬慕する秀吉や信長の場合、すべての情勢と条件を柔軟に計算しつくしたあげく、最後の結論にむかって信念的な行動にうつるのがやりくちであったが、三成の場合は最初に固定観念がある。その観念に、諸情勢・諸条件をあてはめてゆき、戦略をたてる。(166頁)
観念先行、観念に基づいて都合のよい戦略を立て、精神論で遂行する。私たちは、歴史から学び、日本人の持つカルチャーに留意するべきなのかもしれない。
【第852回】『関ヶ原(上)』(司馬遼太郎、新潮社、1974年)
【第853回】『関ヶ原(中)』(司馬遼太郎、新潮社、1974年)
【第482回】『真田太平記(七)関ヶ原』(池波正太郎、新潮社、1987年)
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