2018年12月15日土曜日

【第912回】『武田信玄 山の巻』(新田次郎、文藝春秋、2005年)


 最終巻では、京都への上洛への意志と、労咳による自らの生命の限界への諦念という、信玄の内なる闘いが展開される。多くの方がご存知の通り、上洛の途上で再び労咳が悪化し、信玄の悲願は叶わず生涯を終えることとなる。

 本書の最終盤を読むと、病気に勝てず信玄は天下を取れなかった、という以前の認識を改めさせられた。もちろん、小説である以上、著者の自由な発想による仮説に基づいた主張ではあるだろうが、納得感のある論旨ではある。

 信長が金を武器として使ったことによって、朝倉義景は変節し、そのために武田信玄の西上作戦は頓挫した。(498頁)

 信玄との直接対決を遅らせるために、信玄の背後をつき得る勢力を懐柔する。この時間を買う戦略が、信玄の病気とも相まって奏功し、信玄の野望は潰えた。

 たしかに信玄は天下を取れなかったが、その最後の戦で大敗を与えた徳川家康が、信玄の治世を学び、江戸幕府の長きに渡る政治に活かしたと言われる。天下に覇を唱えられたなかったが、信玄の遺したものは大きかったのであろう。

【第906回】『武田信玄 風の巻』(新田次郎、文藝春秋、2005年)
【第907回】『武田信玄 林の巻』(新田次郎、文藝春秋、2005年)

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【第814回】『孤高の人(上)』(新田次郎、新潮社、1973年)
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