比叡山の風景の描写もさることながら、本巻では比叡山の歴史について勉強させられた。最澄が亡くなった後に起こる権力争いは、たぶんに政治的であり、教えを守ろうとする組織がなぜこうなってしまうのか、よくわからない。
円仁は、終生、横川の山林を愛した。(18頁)
権力争いには興味を持たなかったが、その卓抜した知識によって座主を務めることになった円仁。円仁は、横川での静謐な生活を楽しみ、結果的に、横川を、東塔・西塔と並ぶ叡山の地域へとすることになった。
昨年、比叡山を訪れた際にある僧侶の方がおっしゃっていたのは、延暦寺三塔はそれぞれ、東塔=現在、西塔=過去、横川=未来を指すとのことであった。円仁は、彼が生きた時点におけるつまらない政治的な争いという現在にとらわれず、教えの将来における発展に目を向けていたのかもしれない。
【第534回】『空海の風景』(司馬遼太郎、中央公論新社、1978年)
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