HRBPについて考える上で、参考になるとある方から推奨された本書。2012年に読んだ際にも良書だと感じたが、目的を持って読んでみても、とりわけHRにとって感ずるところの多い含蓄のある書籍であると感じた。
以下からは、HRの役割、9 blockの効用、HRに求められる能力、という三点について記していく。まずは、HRの役割について見てみよう。
そうやって面談に来る社員たちの圧倒的多数、たぶん九五%以上は、何らかの困り事を抱えている人たちです。仕事で悩んでいる人やフラストレーションをためこんでいる人、何らかの理由で元気をなくしてしまっている人や、自分の進むべき道について迷っている人、そんな人たちが入れ代わり立ち代わり、私の前に現れます。
私の役目は、そういう人たちの話に耳を傾け、何らかの言葉を放つことで崖っぷちから救い出すことです。だいたい五分ぐらい話を聞き、その場で答えを出します。それですべてが完全に解決するわけではないとしても、その人がなんとか袋小路から抜け出せるような言葉を向いていた人が顔を上げられるような一言を見つけ出して伝え、「さあ、行こう」と背中を押すのです。
人が実践に裏打ちされた言葉を発するとき、その言葉は魔術として機能します。人事の仕事に携わる人は、そういう「言葉の魔術師」たるべきだと私は思っています。(38~39頁)
著者の一人である八木氏は、HRとは単なる制度の番人ではないと断言する。そうではなく、悩んでいたりモティベーションが下がっている現場の社員に対して、言葉によって積極的に関与する存在であるとする。「言葉の魔術師」となるには一朝一夕では難しいだろう。しかし、COE(Center Of Expertise)ではそうでもなかろうが、HRBP(HR Business Partner)であれば、言葉によって影響を与えることは重要な役割の一つであろう。
人事担当者にとってのリーダーシップとは、権限ではなく見識をもち、正しいことを正しく主張することである。その場合の正しいこととは、ストーリー化した戦略であり、企業が業績を上げて成長していくための大きな絵(ビッグピクチャー)であり、あるいは世の中の変化に合わせて会社に起こすべき変革の道筋です。
そういう事柄を社員に対して真摯に語りかけ、会社が目指していく方向に向かって人々を巻き込んでいく。それが本当の「人事の力」だと私は考えています。(46頁)
特に「権限ではなく見識」という部分が非常に重たく、噛み締めたい言葉である。ともするとHRは、経営に近いために権限を持っているかのように錯覚しやすい。しかし、現場の社員とともに動くためには、経営が語る言葉や制度について、自分たちの見識に基づいて、現場の文脈に咀嚼して語ることが求められるのである。
次に、9 blockについて見てみよう。9 blockの特徴の一つとして著者は、細かい測定項目がないこと(76頁)を挙げている。実際、GEでは、客観的に細かく得点を計算するのではなく、大きい括りでなかば主観的に評価を下していると八木氏は指摘し、以下のようにその詳細を述べている。
人はそれぞれ強みと弱みをもっています。主観で評価する場合、その人が強みの部分によって会社に大いに貢献しているのであれば、弱みの部分はあまり問われません。つまり主観的に高い評価を受けます。(77頁)
主観的な評価というのは否定的に捉えられやすい。たしかに、人事考課について主観的に行うことは効果的ではなく、客観的にフィードバックすることが有効であろう。しかし、9 blockのように、リーダーシップの測定でかつその後の育成を主眼とした評価の場合には、上に引用したように主観的に行うことのメリットがある。実際、9 blockをあまりに客観的に実施すると以下のようなデメリットが生じると八木氏は指摘する。
あらかじめ決めておいた項目ごとに点数をつけるという意味では「客観的」かもしれませんが、必ずしも社員の経営への貢献度を正しく評価するものではないのです。(78頁)
最後に、HRに求められる役割や、9 blockの運用主体としてのHRに対して必要な能力について考えてみたい。
ビジネスを知り、人を知り、正しいと信じることを実践して人を動かし、そこからまた学習と努力を重ねていく。そうやって企業経営の主役の役割を果たしていくのが、私たち人事の使命です。(210頁)
従来のHRがどのような存在であったか、と反対のことを考えてみると、ここで八木氏が指摘していることの厳しさが言えてくる。HRの制度を運用すればよくビジネスの結果にはコミットしていないのではないか。履歴書やcareer viewといった書面のみの情報で、社員を理解したような気になっていないか。経営が言っていることを金科玉条のようにそのまま現場に落とそうとしていないか。HRとして、私たちはこうした点を自分たちに問いながら、学習と努力を粛々と続けていくことが求められているのである。
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