2015年8月24日月曜日

【第477回】『真田太平記(二)秘密』(池波正太郎、新潮社、1987年)

 徳川、北条、上杉とのパワーバランスの不均衡状態という不確かな状況の中で、存分に悩みながらも決然とリスクを取って上田城築城を決断した真田昌幸。その見事なリーダーシップが凝縮されたシリーズ第二巻である。

 長倉の寺へ泊まった翌日、一行は軽井沢を経て、碓氷の峠を越えた。
 さいわいに晴天がつづいている。
 だが、峠を越えるときに、雪が風に乗って吹きつけてきた。
 碓氷峠は、上信二州の国境である。(260頁)

 本シリーズを読んでいると、人物描写が卓抜であり、人物の内面や関係性に関するこまやかな記述にばかり目が向いてしまう。そうした中で、情景や気候が美しく描かれた箇所を読むのもまた、趣き深い。加えて、こうした情景描写にも、真田家の置かれる周囲の他国との緊張感のある状況が暗喩されているようだ。

 むろん、腹の中ではあきれもし、怒りもしていたろうが、これほどのことに感情を激発させるような家康ではない。これまでに彼が体験してきた突発的な異変の数々にくらべれて、問題にならぬ事といってよい。(428頁)

 小牧・長久手の戦いにおいて、織田信雄が単独で秀吉と講和を取り結んだ報を聞いた後の、家康の描写である。大坂夏の陣まで続く、真田家と大きな因縁を持つ徳川家康。その深謀遠慮に思わず嘆息させられる箇所である。

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