徳川・北条を向こうに回しながら、上杉を巻き込み、秀吉の間接的な支援をも導き出し、北条の一部との局地戦へと持ち込む真田昌幸の戦略に唸らされる第三巻。
そうしたときの真田昌幸は、細心というよりも、むしろ[小心]な男に見えた。
それでいて、いったん肚が決まり、行動へ身を置くと、いささかも迷い悩むことがない。(77頁)
リーダーの決断とはこうしたものなのかもしれない。周囲のフォロワーからすると、悩んでいる姿が見えず、何事にも果敢に挑戦しているように見えても、リーダーは、考え、悩み尽くした上で決断を下し、それを貫徹させる。
度量がひろいというよりも、このときの上杉景勝と直江兼続が、昌幸に見せた態度は、爽快をきわめていたのである。
昌幸の苦悩と、その苦悩が行きついた末に生まれた覚悟とを、二人は何の疑惑もなく汲みとってくれた。(161頁)
上杉景勝と真田昌幸は、ともに事態を冷静に看て、率直に肚の内を見せ合ったことにより、豊臣秀吉の好感を層倍のものにしたことになる。(186頁)
真田、上杉、豊臣の信頼関係が構築される様がよく描かれている。さらには、この三者による強固な信頼関係が、後の関ヶ原や大坂城での攻防での同盟関係へと受け継がれていくことが予見されるような表現とも言える。
幼少のころから、幸村には、さんざんに嘲弄され、力くらべでは負けぬ角兵衛も、幸村の才智に結局は屈服せざるを得なかった。
そうした長年にわたる鬱憤と劣等感が、関白殿下から拝領の短刀を奪うという、当時の武士の常識では考えられぬ所業に、角兵衛を駆り立てたのやも知れぬ。
幸村は、騒動が長引くことをおそれてか、国俊の短刀を角兵衛にゆずった。
角兵衛にしてみれば、
(おれは、源二兄上に勝った……)
のである。
勝ったことがみとめられたからには、
(短刀なぞ、いらぬ)
というわけなのだろうか。いや、そのことにも増して、幸村が昌幸に、
(おれと刀一つとが、引き替えになろうか、と、いうてくれた……)
その言葉が、角兵衛を感動させたことは、事実であった。(358~359頁)
お互いにぎこちない幼少からの関係が続いていた、真田幸村といとこの樋口角兵衛。対立の氷解の美しさが描かれる感動的なシーンである。
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