人事の領域には流行がある。戦略や組織に流行があるのだから、それに応じて人事にも流行りのアイテムがあるのは致し方ない。しかし、それらを真似するだけでは決して組織はよくならないし、時に悪化すらする。なぜなら、個別のアクションが遠心力として働き合い、求心力が働かなくなるからである。
では、何が必要なのか。シンプルに記せば、個別のアクションの整合性を取ることであり、その拠り所となる考え方を設けることであろう。
では、成功をもたらすものは何だろうか。答えは人材マネジメントのあり方だけでなく、価値観を重視する姿勢、さらには価値観、戦略、人材の整合を取ることにある。(38頁)
端的に価値観によって、人材マネジメント上のアクションの整合性を取ることが重要であると著者は指摘する。では次に、どういった価値観が重要なのか。もちろん企業によって、業界によって異なる点はあるだろう。そうしたものを踏まえても、普遍的に重要なものとして二つのものを挙げている。
これらの企業がほかと違うのは、次の二つのことーー他社では欠落しがちであるーーを特に重視している点だ。一つは目的意識、もう一つは社員の尊重である。(344頁)
価値観の内容として挙げられているのは目的意識と社員の尊重である。目的意識には異論がないだろう。『ビジョナリーカンパニー』を嚆矢とした一連の著作を俟つまでもなく企業にとって大事なものはミッションや目的と言われる存在である。その上で社員の尊重という一見してヒューマンに過ぎる概念が提示される。しかし、綺麗事で議論をすませるのではなく、具体的な施策の整合性という観点で以下のように論を進めていることに注目するべきだろう。
肝心なのは、単にいい人材を選考し、トレーニングするということにとどまらず、社員がモチベートされて、それぞれのアイデアを行動に置き換えることができるように会社を組織することである。(370頁)
ただ単に社員を尊重すると金科玉条のごとく述べるだけでは、いつまでも実現しない。尊重とは、相手の意思に単に従うということを意味しない。個人の成長・開発にとって必要な施策を、整合的に、それぞれの社員に合わせてデザインしていく必要がある。だからこそ、人事に求められる役割が存在し、人事だからこそできる貢献がある。
人事の仕事は、何をやってはいけないか社内に告げることではなく、競争力を高める有為の人材を誘致し、定着させ、やる気を起こさせることをサポートする方法を開発することなのだ。(372頁)
人事マネジメントに携わる身として、常にかみしめたい至言である。
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