2016年10月30日日曜日

【第638回】『会社の中はジレンマだらけ』(本間浩輔・中原淳、光文社、2016年)

 ヤフーの上級執行役員と東大の准教授との対談。両者のセッションは数年前に伺ったことがあり、ヤフーの人事のしくみに感銘を受けていたので、本書もたのしみにしていたところ、期待に応える良書であった。

 まずはヤフーにおいてフィードバック文化を醸成した1on1ミーティングについて。

 社内で、部下と上司の関係性について調査したことがあるんですが、社員に「どんなときに一番モチベーションが上がりましたか」と尋ねたところ、「上司が黙って話を聞いてくれたとき」という答えが上位に入りました。上司の側には、1on1の場で部下に何かとんでもないことを言われるんじゃないかという恐怖もあるんですが、実際には、部下はいつも上司に解決策を求めているのではなく、話を聞いてほしいだけというケースが多いんです。(34頁)

 ヤフーでは毎週1on1ミーティングを行っている。そんなに何を上司は話すことができるのかという異論が出そうであるが、本間氏は端的に話したり解決策を示すのではなく話を聴くことが重要であると指摘している。同意である。聴くことで、部下が何に関心を持って働いているのか、何に困っているのか、どういう優先順位付けをしているのか、いろいろと分かることはある。一通り聴き終わった後にはフィードバックをすると良い。

 フィードバックも同じで、上司が部下の鏡になって「こう見えているよ」と教えてあげればいいんです。「見える」という言い方が大事で、そこに「なんでできないんだ」とか「あんなことやってどうするんだ」という評価を加える必要はない。(49頁)

 上述した通り、解決策を示す必要はなく、加えて部下の話に価値判断を示す必要もない。シンプルに、どのように客観的に見えるのかについて示してあげれば良い。そうすることによって、部下側としては自分の言っていることがどのように他者に映るのかを把握することができ、自分で自分の抱える課題に気づくことができる。

 本間さんは面白いですね。ある仕組みをつくったら、必ずそのカウンターとなる仕組みも併せてつくりますよね。そういう思考の人なんだろうけど、人を信じている一方で、過剰に信頼しすぎてもいない。人を信じて、人を信じすぎず。これもマネジメントの妙味ですね。(136頁)

 1on1ミーティングという上司から部下への施策に加えて、部下側からのフィードバックを仕組みとして設けようとしている旨を本間氏は述べている。それに対する中原氏の発言が上記引用箇所であり、なるほど、妙味のある考え方であると唸らさせられる。


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