2014年11月9日日曜日

【第371回】『組織力ー宿す、紡ぐ、磨く、繋ぐ』(高橋伸夫、筑摩書房、2010年)

 組織における力とは何か。組織という形式じたいに力が宿るのではなく、組織に存在する人々の力が組織の力を紡ぎ出すのである。

 重要なことは、人々は最初、手段について収斂するのであって、最初から目的について収斂しているのではないということである。まず、共通手段について収斂して「相互連結行動」を繰り返すようになり、その結果として、安定した相互連結行動サイクルが多数形成され、かつ多様な目的をもった者が、それらを使うようになることで、共通の目的へとシフトしていく。(92~93頁)

 組織人の力が結集されるためには、なんらかの相互作用が求められる。ここで著者が述べるのは、目的によって結集されるのではなく、最初は手段によって力が収斂されていくということである。

 「組織の合理性」とは、自分たちの行動を説明するのにもっともらしい歴史を事後的に作っては変える回顧的なものなのである。(64頁)

 だからこそ、組織における合理性とは、将来における目的や目標から演繹的に導き出されるのではない。そうではなく、過去の行動をもとにして現時点において回顧的に創り出すものなのである。

 ある程度の歴史をもった(つまり、生き延びてきた)日本企業のシステムの本質は、給料で報いるシステムではなく、次の仕事の内容で報いるシステムであった。仕事の内容がそのまま動機づけにつながって機能してきたのであり、それは内発的動機づけの理論からすると最も自然なモデルでもあった。他方、日本企業の賃金制度は、動機づけのためというよりは、生活費を保障する観点から平均賃金カーブが設計されてきた。この両輪が日本企業の成長を支えてきたのである。それは年功序列ではなく、年功ベースで差のつくシステムだった。(143~144頁)

 『虚妄の成果主義』のメインメッセージを著者自身で要約した箇所である。過去のパフォーマンスが将来における仕事によって報いられる日本企業の旧来的なしくみがその強みであったという。仕事の連鎖によって結果的に差がつく年功ベースの人事システムという表現が、日本の人事システムであったと著者は断言する。

 こうした組織の中における仕事を巡るダイナミズムは、カール=ワイクが大いに参考になるとして、『組織化の社会心理学』の論旨を付章で取り上げている。これが非常に参考になる。著者による要約を見てみよう。

 組織を静態として捉えるのではなく、組織化のプロセスこそを研究することの意義が存在する。組織を静態的に記述しても、組織を理解できないのである。(181頁)

 組織を研究するということは、そのダイナミズムに焦点を当てることである。静的に組織を描写したとしても、それでは組織を理解することができない。

 本来、人間の活動は多義的であり、いろいろな意味に解釈可能なものである。それが組織化のプロセスのなかで、互いの行動を意味あるものに組み立て、互いの行動の意味を確定させることができるような合意した文法を共有するようになる。(182頁)

 組織内におけるダイナミズムとはすなわち、組織における人々の交換関係に基づくプロセスである。一人ひとりが多様な存在であるため、その交換関係は多義的に解釈可能なものである。そうした多義的なものから意味を収斂して行くことが、組織においては求められるのであり、これが組織化のプロセスである。組織化は以下の三つの過程から成り立つ(187頁)。

(a)イナクトメント(enactment):経験の流れのある部分を将来の注意のために分節すること
(b)淘汰(selection):その分節された部分にある限定された解釈をあてがうこと
(c)保持(retention):解釈された断片を将来適用するために蓄えること

 こうした組織化のプロセスは、組織の中において多様な人々の間でどのように為されるのか。ワイクは以下の二つの相互連結行動を通じて説明する(192頁)。

(a)ある人の行動は、外の人の行動に依存して決まる(contingent on)のだが、この依存性(contingencies)のことを「相互作用」(interacts)と呼ぶ。ここで、相互作用が双方向ではなく一方向の概念になっていることには注意が要る。
(b)行為者Aによる行為が行為者Bの特定の反応を喚起し(ここまでは相互作用)、さらにそれに行為者Aが反応するとき、この完結した連鎖のことを「二重相互作用」(double interacts)を呼ぶ。


0 件のコメント:

コメントを投稿