2017年1月1日日曜日

【第660回】『日本文化私観』(坂口安吾、青空文庫、1943年)

 著者の文章は、ウィットとアイロニーに富んでいる。以前はその独特なアイロニーがしつこいように感じ敬遠しがちであったが、最近では、ところどころの絶妙なウィットが楽しくて無性に読みたくなることがある。

 美は、特に美を意識して成された所からは生れてこない。どうしても書かねばならぬこと、書く必要のあること、ただ、そのやむべからざる必要にのみ応じて、書きつくされなければならぬ。ただ「必要」であり、一も二も百も、終始一貫ただ「必要」のみ。そうして、この「やむべからざる実質」がもとめた所の独自の形態が、美を生むのだ。(kindle ver No.451)

 日本における文化とは何か。意図的に美しさを狙ったものは、美しくはないと著者はする。その上で、必要なものを、必要に迫られて作ったり書いたりすることによって、美的な何かが生み出される。


 私たち日本人が労働において美を感じたり、すぐに文化という文脈で組織風土を捉えようとすることは、こうした美に対する感覚が現れているのではないか。シンプルな文章をもとに、こうした飛躍的解釈を試みることもまた、面白い。


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