カジュアルに読めて、それでいて知的刺激を得られるという書籍もいいものだ。日頃、ビジネス書は好んで読まないが、本書は面白く読めた。読み易い簡潔な文章でありながら、考えさせられる示唆に富んだ箇所がいくつもあった。
ドミナント・デザインを確立した組織は、部門間のコミュニケーションの大胆な変更・調整が難しくなっていきます。したがって既存の大企業ほど、その後出てくる「新しい組み合わせ」によるイノベーションに対応できないのです。すなわち、革新的イノベーションに対応できないのは、技術問題以上に、ドミナント・デザインに端を発する組織問題なのです。ドミナント・デザインはある程度の規模以上であれば、どの企業も抱える本質的な問題といえます。(87~88頁)
クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』を想起してほしい。破壊的イノベーションになぜ大企業は対応できないのか。イノベーションの本質は組み合わせによって為せる技であり、組み合わせを促す組織には冗長性が求められる。そうなると、既存のビジネスモデルを追求するために組織を効率化させることを目指していると、そうしたイノベーションを生み出す環境から離れていくことを意味する。そうであるから、イノベーションを阻害するのは、勝ちパターンのビジネスモデルに組織を最適化することなのである。
ではどのように留意することができるのか。本書では、そのヒントとなる考え方も提示されているからありがたい。
医薬品産業における「アーキテクチュラルな知を高める組織特性」は二つです。それは、(1)研究者が会社の枠を超えた広範な「研究コミュニティー」で知識交換することが評価される組織であること、そして(2)社内でも分野の垣根を幅広く越えて情報を交換することです。(90頁)
成功している大企業であっても、組織内外における情報交換の場を支援する組織であれば、イノベーションを起こすために必要な知の交流が実現できるとしている。本書はアメリカのビジネススクールにおける最新の知見を紹介すると謳っているが、ここでの実戦的示唆は、石山先生が『組織内専門人材のキャリアと学習ー組織を越境する新しい人材像ー』で明らかにした点と符合するから面白い。
このようにして胚胎されるイノベーションの萌芽は、すべてが芽を出すのではなく、むしろ少数である。では芽を出すまでに必要なステップには何があるのか。
予想通り「従業員の創造性の高さ」→「アイデアの実現」の関係は、その人が(1)実現へのインセンティブを強く持ち、(2)社内に強い人間関係を多く持っている場合にのみ、大きく高まる、という結果を得たのです。(102頁)
創造性を持つ社員がいることは想像しやすいが、そうした人物が企業のビジネスの文脈に合わせて他者と協働できることが必要とされる。もちろん、一人の人物が二つの要素を兼ね備えればいうことはないが、それはジョブズなど一部のスーパーパーソンに限られるだろう。この現実に照らせば、(1)の人物と(2)の人物とを組み合わせて組織の中でイノベーションを進める組織デザインと人材配置を工夫することが私たちが取り組むべき課題なのではないだろうか。
【第573回】『経営戦略を問いなおす』(三品和広、筑摩書房、2006年)
【第281回】『良い戦略、悪い戦略』(リチャード・P・ルメルト、村井章子訳、日本経済新聞出版社、2012年)
【第248回】『経営戦略の論理(第4版)』(伊丹敬之、日本経済新聞社、2012年)
【第281回】『良い戦略、悪い戦略』(リチャード・P・ルメルト、村井章子訳、日本経済新聞出版社、2012年)
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